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●現代



寒波が続く欧州、オランダの家を仕事で訪問した日本を、なぜかアルレシアはオランダとともに出迎えた。直前まで会議をしていたのだが、日本も今日は仕事自体は終えており、オランダがどうせなら3人で飯でも行こうと誘ったのだ。あまりオランダがこういうことを誘う相手は多くないので、さすが鎖国していた国と貿易していただけあると思う。

日本は時間通りないし5分前にやってくるため、ぴったしに着くよう2人は動いていた。しかし、日本がバスのストライキに引っかかってタクシーを使うということで、数分遅れることになった。
2人は待ち合わせ場所の橋で少し待つことになる。


「数分の遅刻を謝罪してくるとは…」

「20秒はよう出発した電車が謝罪声明出す国やさけ」

「狂ってるだろ…」


ちなみに、概して日本の病的な時間の正確さは欧米では狂気として報道される。日本の民衆が思っているほど、そう好意的ではなく、引くわぁ…という目で世界の人々は見ているのである。
心の余裕も大事だと思う欧州人だが、中にはポルトガルのような者もいるので、世界は色々いるものだとも思う。


「にしてもアルレ、寒ないんか」

「え、寒いけど」


アルレシアはオランダの家を出る際、面倒だしすぐ日本も来るだろうということで、コートを着ないでマフラーだけして出て来た。セーターを着ているし大丈夫だろうと思っていたのだが、いくら温かいオランダの北海沿岸といえど、冬は冬だ。イタリアのような温かさでもない、普通に寒かった。

しかも今日に限ってかなりの寒波だ。雪が降っていないのが不思議な程である。


「ほういう案外ずぼらなとこもかいらしいけど、ちょびっと考えねま」

「返す言葉もねぇ…」


オランダのド正論に言い返す術はない。
ぶるぶると震えながら橋で待っていると、オランダはついに見かねたらしい。

おもむろにコートの前を広げると、アルレシアを振り向かせて、そしてそのコートの内側に抱き締めた。オランダの胴体に抱き付く形となると、オランダはコートの前を留めていく。すっぽりとコートに包まれることになった。
いくらコートのウェストを絞っていたのを解放しているとはいえ、1人をコートの内側にしまい込めるというオランダの体格を実感する。

ただ、抱き付く体の温もりや包み込むコートの温かさのおかげで、じんわりとアルレシアは熱を取り戻した。


「あったけ〜」

「周りに見られとってもええんか」


自分でやっておきながらオランダはそんなことを言ってきた。オランダ自身は気にしていないようだ。


「別に、顔見られてないし俺だってバレないから平気」

「あ、オランダさんや〜、そこにおるんはアルレシアさんかいな」

「あれオランダさんとアルレシアさんやないか」

「ほやなぁ、相変わらず仲良しやんな」

「めっちゃバレてる〜」


言った直後、道行く人々が話す声が聞こえて来た。どうせ、オランダがこの距離感を許すのがアルレシアしかいないと分かっているからだろう。顔も見ずに当ててくるあたり、もう2人の距離感の近さは広く知られているらしい。


「遅れてすみません…それはどういう状況ですか」


そこへ、日本の落ち着いた声が聞こえて来た。もぞもぞと体勢を変え、コートの襟もとから顔を出す。


「やはりアルレシアさんでしたか」

「日本にもバレてるし…よ、日本」

「Welkom,日本」

「こんにちは。して、なぜアルレシアさんはそんな二人羽織のようなことに…?」


挨拶を済ませると、当然日本は不思議そうに尋ねる。寒かっただけだと答えると日本は途端に申し訳なさそうにしたので、慌ててアルレシアは話を変えた。


「それより二人羽織って?」

「1人がすっぽりと布に包まれた状態で、もう1人の後ろに座り、その人に色々と食べさせたりするものです」


日本は画像を検索してスマホに表示してくれた。見てみると、確かに近い姿になっている。オランダが完全にコートの中に包まればこうなるだろう。


「見えなくてもできるかってことな。ちょっとやってみろよオランダ」

「ん、じゃあさっき買った缶コーヒーでええな」

「おう」


オランダは自分でマフラーを目元に巻くと、缶コーヒーをアルレシアの前に差し出した。日本は突然即興で始まった二人羽織に面食らうが、アルレシアの口元に正確にオランダの缶コーヒーが当てられると更に驚いた。


「何も言わずともぴたりと…!」

「そこでOK、じゃあ飲むぞ」


アルレシアが合図をして口をつけると、オランダは絶妙な傾き加減で缶を傾けた。口内にちょうどいい量のコーヒーが入ったところでオランダは缶を離す。普通に飲み込むと、特に何事もなく終わってしまった。


「こういうモン?」

「…まぁ、上手なプロはそうしますし、素人がやって失敗するのを面白おかしく見ることが多い芸なんですが…さすがのお二人ですね…」


オランダはマフラーを外すとどや顔をした。表情の差分が少ないオランダにしてははっきりとしている。


「俺とアルレが何百年この体勢やっとると思うとるんや。余裕やざ」

「私は何を見せられているんでしょう…」


遠い目をする日本、一発で成功したことにどや顔をするオランダ。こちとら年期入りの惚気だ、人々や国たちがこういう反応になるのは正直何百回と見て来た。
別に見せつけるつもりはまったくないが、こういうしょうもない瞬間に出てくる2人の関係を示す事柄が、存外アルレシアは好きだったりする。


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