帰属問題
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それは、珍しくまともに進んだ世界会議でのことだった。
アメリカがさくさくと進行し、EUに入っていない国々をまとめる意味でも北欧を指差す。
「それじゃ、北欧は該当品目について包括的な協定を頼む!」
「おー」
今日は食糧の貿易が環境問題によって偏り、その是正について話し合っていた。北欧では漁業について、既存のものよりもさらに高度な枠組を作ることが期待される。
それにしても、踊らない会議などいつぶりだろうか。
そう国たちは思っていた。
「じゃあ北欧でちょいと集まれ!」
デンマークの呼びかけに、スウェーデンとノルウェー、フィンランド、アイスランドが集まる。
「おい、アルレシア、早ぐこっち来い!」
会議場が静まり返った。
―――これが、始まりの合図だった。
「デンマーク、アメリカは北欧って言ったんだよ?北海じゃないよ?」
「何言ってんだべフランス、それぐれぇ分がっぺ!」
「じゃあなんでアルレシアを呼んだのかな?」
すでにフランスはデンマークの思考を分かっていた。
その上で聞いている。
「そりゃ、アルレシアが北欧だから以外にねぇべ!」
「おいデンマーク!お前まだそんなこと言ってんのか!」
イギリスががた、と音を立てて立ち上がる。
「アルレシアが北欧なのはおかしいな」
ドイツも静かにデンマークを見据えた。
「「アルレシアは西/中欧だ」」
「……」
「……」
「…ドイツ、俺の耳が飾りじゃなきゃ、お前今中欧って言ったよな?」
「あぁ、言ったな。イギリスこそ、間違えて西欧と言っただろう」
「間違えてはいねぇな」
「…ほう」
「二人ともちげぇっぺや!」
イギリス、ドイツ、デンマークは互いに睨み合う。バチバチと火花が見えそうだ。
「デンマーク、ドイツ…今日この第435回アルレシア所属問題で決着つけようじゃねぇか…」
「アルレシアはお兄さんたち西欧だ!」
「俺たち中欧だな」
「北欧だっぺ!」
「南欧って手もあるでー」
「僕北欧入りたいです」
「EUに入れやがれぃ!」
「みんなロシアがいいんじゃないかな、ふふっ」
「ロシアはそろそろ小さくなった方がいいんじゃないかい?」
アルレシアはここまで1回も発言していない。それにも関わらず、一瞬でここまで話が進んでしまった。
大方、いつも大したことやってないのに珍しく真面目なことをしたものだから、皆うずうずしていたのだろう。働け。
というか435回も開催していたことに驚きである。
「埒が明かないから今日の議題はアルレシアの所属問題だ!一人一票で決議を出すんだぞ!」
「それなら我のアジアは関係ないあるから帰っていいあるか」
「アジアは中国のものじゃないだろう…」
「誰あるか今の!ベトナムか、ベトナムあるな!」
「世界の意見も聞きたいんだぞ!とりあえず、主張の整理だ!」
どうやら今日はアメリカの調子がいいらしい。
まともな進行で混乱がいったん止まる。いや、すでにまともな議題ではないが。
「まずどうして自分のところにアルレシアが属するのか主張してくれ!」
〜北欧の主張〜
「北海にあって、位置的に北欧でいいと思います。アイス君が北欧に入るならアルレシア君も入るんじゃないかな」
フィンランドが落ち着いて地図を示しながら言う。
北海に浮かび、北欧とも海上の国境が接している。実際、最も海上国境の接続域が大きいのはノルウェーだ。
「昔っから交易してぎたしな!俺とノルなんかはヴァイキング時代からの仲だっぺ!」
「あんこ負げだけんどもな」
「忘れた!」
デンマークとノルウェーはアルレシアと古くからの仲でもある。といっても最初は戦争していたが。
「…産業構造も、政治制度も、北欧寄りだ」
最も早くから社会民主主義福祉国家になったスウェーデンは、社会制度をアルレシアに輸出した経験がある。アルレシアも北欧と同じく、消費税20%の高福祉高負担国家だ。
「アイスはなんかあるけ?」
「えっ…僕は別に…」
「アルレシアが北欧じゃなくてもいいのけ?」
「そういうわけじゃないけど…まぁ、アルレシアが北欧来たら、うれしいな、としか……何言わせんの、もう…」
「…っ、」
「まずい、アルレシアがアイスランドのツンデレに心揺れ動いてる!眉毛、出番だ!」
「うるせぇ髭!ツンデレじゃねぇ!」
「あーはいはい、西のおっさんたちは後で聞くんだぞ!次!」
〜中欧の主張〜
「えー、ぶっちゃポジショニングとか分かんないけどポーランドルールでアルレシアは中欧だしー」
「ポーランド、もっと論理的に話せ!…我輩は他国に関わる気はないが、位置を見るからに中欧である!」
「お兄様、素敵ですが他国に関わっております…」
「私以外どうでもいいですわ」
「あああまとまれお前ら!」
ドイツがバラバラな中欧メンバーに一喝する。
ポーランドはそもそも論理ではないし、スイスの言う位置こそ少し厳しいものがあるし、なんならチェコは自国以外に興味がない。
「中欧はアクが強いねぇ」
フランスの言う通り、中欧に属するのはドイツ、ポーランド、スイス、リヒテンシュタイン、チェコだ。
チェコは自民族至上主義であるためこれ以上主張はないだろう。
「あー、さっきスイスが言った通り、位置としてまず中欧だ。それに、アルレシアの上司の先祖には、ブランデンブルク辺境伯との婚姻関係もある」
「ケセセッ、ヴェストの言う通りだぜー!ドイツの一部にしか見えねぇぜ!」
「なんで兄さんがいるんだ…」
さらに引っ掻き回すプロイセンが登場した。国ではないプロイセンはそもそもここにいる資格がない。
「あれ、君は僕と東欧だよね?」
コルコル、とロシアが不気味に佇む。
「よ、用事思い出した!」
何のために来たのか、プロイセンは速攻で帰っていった。
〜西欧の主張〜
「最後は西欧なんだぞ!」
「アルレは俺のもんやざ」
「突然の愛の告白、お兄さん好きよそういうの。でもアルレシアはお兄さんのだから」
「アルレ兄ちゃんはウチのや!」
「兄さんと姉さんには譲りません」
「てめぇらそういうことじゃねぇだろ!」
オランダに始まる個人の主張を、イギリスが散らす。ただの告白合戦だ。フランスとベネルクスは不満げにしている。ドイツと同じようなことにイギリスがなっていた。
「西欧であるオランダの北にあり、俺やフランスとデンマークたちより早く交易し、長いこと俺かオランダと同君連合だった!これが理由だばか!」
まくし立てるイギリスの声が室内に響いた。恐らく、1番説得力がある。
「んー、面倒だから一日ずつそれぞれのところに属して、それでアルレシアが決めればいいんだぞ!」
「それがいいべ!」
「俺も異論はないな」
「お兄さん賛成」
「じゃあこれでいこう!」
が、しかし。
アメリカはめんどくさそうにコーラを啜ると、イギリスから視線を逸らしてそうまとめた。
ちなみに他の地域の国々はいつもの懇談に花を咲かせていた。
「…俺の気苦労はいったい…」
「や、なんで本人に意見聞かないかな…」
踊った後には、やつれた眉毛とげんなりしたアルレシアが残った。