プロローグ
自分でもテンプレ人生だな、と感じることは、正直ある。よくある話であるあまり逆に見ないと言えるレベルだ。
ただテンプレというのは、実際にそういうことがあるから人々の共感を得てテンプレたり得るわけだ。そう、ちょうどトバリのように。
少し前までトバリの家は、中の上くらいの階級の家で、それなりに財もあった。そのお金は家や車のためなどではなく子供の養育に使われ、長男のトバリをはじめ弟が2人、妹が3人生まれた。しかし、子どもたちがこれからというときに、父が亡くなった。敵による襲撃で脱線した電車に乗っており、仕事へ行く途中に巻き込まれて死んだのだという。それがつい1年前の出来事だ。
1年前など昨日のことのように思い出せる。
父の死を知らせる電話の受話器を落とした母の蒼白な顔、それより真っ白になった父の棺桶の顔。
当時中学3年だったトバリは父の死を受け止めるには十分な年齢だったし、中1の次男、小5の長女もしっかりと理解していた。小3の次女は何となく、小1の三男と幼稚園年少の三女はほぼ分かっていなかった。
分かっている次男と長女は葬式はもちろん、日々泣くことが多かったし、次女は徐々に理解して泣くようになり、三男と三女は上の子供たちが泣いていると泣いてしまった。
そんな弟や妹たちを慰めるため、彼らが泣く度に側で抱き締めたり頭を撫でたりとついていてやった無数の時間も、ひとつひとつ覚えている。
母は子供たちの前では泣かなかったが、深夜にリビングの仏壇の前で声を殺して泣いているのを見かけたことがあったし、知っていた。さすがに慰めることこそなかったが、トバリは母の負担を減らすために料理を覚えたし、母と一緒にいる時間を増やして会話を多くした。
そういったことに奔走するためには自分の感情を制御することが不可欠で、一緒になって泣くことなどないよう耐えているうちに、1人であっても泣くことがなくなった。葬式で泣いただけである。
トバリの生活は、そうした弟たちのメンタルケアや家事以外にも大変なことになっていた。敵犯罪保険や生命保険、自治体からの補助金、そして生活保護によって当面の生活に支障はなさそうだったし、持ち家でローンなしで購入していたためその心配もなかった。
だが、これから5人も控えている状況でトバリは高校受験をすることになったのだ。私立などもってのほかだし、公立でも学費こそトバリの家計状況ではかからないが、いろいろと金は入用だ。
それなら、トバリは進学を諦めて次男たちが自由に高校を選べるようにするべきかとも思ったが、そんなときに教師に勧められたのが、傑物高校ヒーロー科だった。
家から電車で5駅ほどのところにある高校で、全国でも有名な進学校だ。東の雄英、西の士傑と呼ばれるヒーロー科最高峰の学校にひとつ加えるなら、この傑物だという。
特にヒーローというものに憧れはなく、何なら父を助けられなかったということで少しだけ嫌厭するような職業だったが、傑物高校の制度が特殊だったのだ。
この傑物高校ヒーロー科は、優秀なヒーロー志望を少しでも雄英や士傑志望者から引き抜こうと様々な制度を設けている。その中でも、特待生制度というのがとんでもないものだった。
なんと、特待生になると学費が無料になるどころか生活費として月に25万円が学校から振り込まれるのである。生徒本人には交通費、教材費、その他雑費手当として月に5万円が与えられる。これはアルバイトをする必要がないということだ。
総額、3年間で1080万円。お金がかかるどころかむしろお金をもらえるのだ。もはや普通の世帯の手取りより多い。
もちろん、トバリの家の場合は5人も下にいるためまったく余裕はないし、補助金の類もなるべく節約しているので生活は厳しめだ。それでも、ここを卒業すればそれと同時にプロヒーローになって定職に着ける。安定的に家にお金を入れられるわけである。
なるほど確かに、進学そのものを諦めるほどの苦学生で優秀な人材を確保するには非常に有効な手立てといえた。