戸愚呂姉は、キルアとはまた毛色の違ったゾルディック家にそぐわない思考の持ち主だ。
今までは「運命の王子様」に出会うだの何だのと騒いでいたが、ある日を境にそういった事はぱったりと口にしなくなった。正直、家族はみんな内心胸を撫で下ろしていたと思う。これで戸愚呂も少しはマシな人間になるだろう、と。
しかし同時に仕事すらしなくなったので、以前の方がまだマシだったぐらいだ。仕事を無視して突然どこかにふらりと出かけたかと思うと、いつの間にか戻ってきてマンガ片手にソファでゴロゴロしたりしている。
オレの推測では姉貴が変わったのは十中八九“男”のせいだろうと見立てているが、そんなことはオレには露ほども関係のない話だ。別段仲良しきょうだいというわけでもないし、好きに生きて好きにくたばってくれて構わない。むしろ早くくたばれ。
そんなどうでもいい分析をしつつゲーム機を検分していると、大切なコレクションの一つが欠けていることに気付いた。オレの宝物を無断で持ち出す慮外者など、この家ではたった一人しか思い浮かばない。
予想通り、そこにはテレビ画面に向かって懐かしのレトロゲームに挑む女がいた。
「姉貴! オレのゲーム勝手に持ち出すなって再三言ってるだろ!」
「えー、別に良いじゃん。 暇だし。」
「お前の都合なんか聞いてねえよ! つーか早く返せよ! 今すぐ!」
「あ? テメー、お姉さまに向かって説教垂れる気かよ。 殺すぞ。」
「…………。」
正直腕っぷしではとても敵わないので、怒りに任せてこれ以上強くは言えないのが皮肉的だ。何しろ、昔互いのケーキを食べた食べないで喧嘩となり半殺しにされた苦い経験があるからだ。
恨めしげに戸愚呂を睨むと、ヤツはやれやれと肩を竦めた。おいおい、こっちは泣きたいぐらいなんだぞ。
「……あー、もう分かったって。 これじゃあたしがミルを虐めてるみたいじゃない。 しょうがないなー、これあげるよ。」
正しく虐められているのであるが、そう言って握らされたのはたったの100ジェニーだった。しけてる。
だが、オレは泣く泣く我慢するしかなかった。
「……絶対に壊すなよ。」
「うん、分かってるって。」
いや、分かっていない。この女はいつも口先だけだ。以前限定物のフィギュアを壊されたときは本気で殺すつもりで殴りかかったが、あっさりと返り討ちにあった。非常に痛かった。
大体、親父やママが戸愚呂を甘やかすのが悪い。親父が戸愚呂を叱るところをまず見たことがないし、ママなんて「早く戸愚呂ちゃんの花嫁姿を見てみたい。」と日頃から楽しそうに言っているし、親目線で見ると戸愚呂なんかでも娘という特権で可愛く映るらしい。しかし、オレからしてみたら最低最悪の姉であることには変わりない。どうせなら、アニメやゲームの登場人物のような可愛くて優しい姉ちゃんが良かった。心底そう思う。
「あ、そういえばピザ取ったけどミルも食べる?」
「……食う。」
なんて言いつつも、実のところきょうだい仲は案外悪くはない、のかもしれない。
アヒルの子はアヒル
170614