「戸愚呂って確かハンター証持ってたよね?」
「あぁ、そうそう。 ずっと前に暇つぶしで取ったんだよね、ハンターの資格。」
「次の仕事でハンター証が必要なんだけど、お前やらない?」
「うん、無理。 そんなものとっくの昔に無くしたし。」

 人生で初めて妹に頼る日がくるかと思ったが、数秒でその目論見は泡と消えた。馬鹿と鋏は使いようと言うが、本当に使い所のない妹である。
 しかもここ最近は修行も疎かにしてるし、仕事をこなしている姿さえ見ていない。

「戸愚呂、いい加減仕事に復帰しなよ。 ミルキがうるさく言ってたよ。」
「……絶対に嫌。」
「お前がのうのうと暮らせてるのは誰のおかげ?」
「えー、誰? お兄ちゃん?」

 嫌らしくも、戸愚呂はにやにやしながら答えた。人を煽るのが大層上手い。もはや天才的とも言えるだろう。ここで戸愚呂をブチのめすことは簡単だが、そうするとコイツは益々やる気を無くすこと必至だ。オレは戸愚呂の思い通りになんて絶対ならない。

「あのね、戸愚呂。 食費だってタダじゃないんだから。 自分の食い扶持くらい自分で賄いなよ。 うちは執事だって沢山養わなきゃならないんだから。」
「働くくらいならあたしは食べない。」

 この数年ですっかりニート思考が染みついてしまったらしい。その割に現在戸愚呂はピザをむしゃむしゃと平らげている。お前に断食なんて確実に無理だろ。
 どことなく、豚みたいに肥えてきたように思えるし。

「戸愚呂、太ったんじゃない?」
「えっ。」

 女子に吐いてはならないワーストワードの内の一つだ。普通ならば気を使って遠回しに指摘すべきであるが、イルミには一切情けなどなかった。

「そうやって食っちゃ寝して過ごすからミルキの二の舞になるんだよ。」
「そ、そこまでいってないから!」

 これは思ったより効果的だったらしい。面白いぐらい戸愚呂の狼狽が見て取れた。馬鹿らしく腹の肉を摘まんで実情を確かめている。
 きっともう一押しで戸愚呂は陥落するだろう。

「これで分かったろう? 楽して生きたっていいことないよ。 これに懲りたら、きちんと仕事をこなしなよ。
 終いにはオレも怒るよ?」

 そう畳み掛けると、戸愚呂は全くの上の空で「そういえばさぁ、」と突然話を変えた。

「パパはママのどこを好きになったのかな? ママって思い込み激しいし、ヒステリック入ってるしかなり自分勝手だし、あんまり良いところないじゃない? ずっと気になってたのよね。」
「…………。」

 その性格は戸愚呂にもしっかり遺伝してるってどうして気付けないのかな。
 ……我慢の限界だ。そろそろこのお花畑症候群のアホを殴ったって、オレは許されるよね?
深淵なるカラスさん
170614