すっかり皺の寄ったベッドに横たわり、意味もなく隣に寝そべる男を眺めてみる。26歳という響きは良い。完璧だ。メルヘンに富んでいる。神秘にさえ満ちているように思う。下手したら森羅万象にも繋がっている恐れすらあった。
当のクロロはというと、呑気にも彼お気に入りのマンガに目を通している。馬鹿らしい。危機感がまるでないのだ。その気になったら、その喉に鋭く牙を立てるくらいわけもないというのに。
不毛だ。実に、虚しい生産性のない関係。
「……ルシルフルさん。 あたしね、恋人を作ろうと思うの。」
そんなあたしの声を受けて、それまで無関心を決めこんでいたクロロは目線だけこちらに寄越した。
だって、考えてみたら生まれてこのかた“恋人”がいた経験がないんだもの。(友達とやらがいたこともないけど、それは人生においてそこまで重要ではないから大丈夫だ、と現実逃避をしておきたい。)
肝要な愛の形は何だっていいの。
命を賭してあたしを守ってくれてもいいし、ワインで心中を図るでも、コンクリートに詰めて殺してくれたって構わない。あたしに対して一途な気持ちを抱いてくれる人であるのならば。
きっと本当のあたしを真摯に見つめて、好きだって愛してるんだって言葉で伝えてくれて、あたしの心を囲って離さないの。そして本物のキスを交わして、あたしは真実の愛に目覚めるのよ。
「やめておいた方がいい。」
「何で?」
「別れを惜しみたくないならな。」
「……どういう意味?」
理解できないなら構わない。 そう呟くと彼は黙りこくってしまった。
ほら、いつだってそうだ。クロロは以前と変わらず冷淡にあたしを突き放して、言葉足らずであたしを悩ませる。
だが、これだけは念頭に置いておきたい。決して勘違いしないで頂きたいのは、あたしは彼の容姿だけを気に入っているという点だ。言い換えるなら愛玩動物のようなものだ。だって、そうでしょう? 彼自身に魅力なんてまるで無いもの。
機械みたいに冷血で、心が枯渇してるんだわ。
「シャワー浴びてくる。」
ガウンを羽織って思わず浴室に隠れた。あぁ、どうかしている。だらし無いため息をひとつ落とす。こんなにミジメったらしい気持ちに陥ったことって、ない。
滑稽ね。始めから分かりきっていたというのに。備え付けの鏡に映るのは間抜け顔の女だ。鏡の隅は少しだけ白く曇っていた。どうせなら、朝靄みたいに真っ白になって全てを包み隠してくれたら良かったのに。惨状を直視できなくて手掌で瞼を覆った。ざわざわざわ、と海底の奥深くに沈みこんだみたいに耳鳴りがする。
「まるで駄々っ子だな。」
「それでも、クロロよりはずっとマシ。」
いつの間にか背後を取られていたので、いよいよ暗殺業は引退すべきだと思った。
彼なりのご機嫌取りのつもりなのか、左手を柔らかく取られ、そのまま甲に唇を押しつけられる。古傷は敏感なのだ。現在は見る影もないけれど。
「……くすぐったい。」
「我慢しろ。」
次いで彼はあたしの耳の裏側を舌でなぞって、腹部に手を這わせてきた。徐々に指先が下部に降りてきて、周回するように撫でられると脚が震えた。喉から掻き鳴らしたくない声が漏れる。そんなあたしにクロロは満足そうにした。あたしは呼吸さえも苦しいというのに、その余裕がきらいよ。
陳腐な話のようだけど、そこには確かに二個の心臓が存在していた。
翼の剥げたエミュー
170617