※ヨークシン編
※ゴン視点



「うわぁ!?」

 早朝の大競り市で、黒山の人だかりを掻き分けて歩いていたときだった。
 真後ろにいたキルアがそんな頓狂な声をあげたのは初めてで、まずそこに驚いたのだが、それ以上に不可思議だったのは背後から彼を抱きしめている女性が一体いつ現れたのか、という点であった。というのも、気配が微塵も感じられなかったからだ。
 その女性の年齢は、レオリオやクラピカとそう変わらないくらいだろうか? 女の人の年齢なんて、よくは分からないけれど。
 彼女はそんなキルアを見てけらけら笑っている。

「あはは、キルってば単純〜。」
「って、テメーかよ! 戸愚呂! いい加減離せよ!」

 キルアは誰なのか見当がついたらしく、途端に声を荒げている。そして無理くり彼女の緊縛から逃れたようだ。
 二人を見比べてみると単純明快で、彼女はキルアと似通った髪色と髪質をしているように思えた。どことなく顔付きも似ているような気がする。

「キルア、もしかしてその人って……。」
「あー、もー、最悪の出会いだな。」
「どうも初めまして! キルアの姉の戸愚呂です!」

 彼女は朗らかにオレに握手を求めてきた。……明るい人、なのかな。以前会ったキルアの兄貴とは随分違い友好的だ。
 そうして彼女はオレを物珍しげに見つめてくる。実に遠慮のない視線だった。

「君、ゴンくんでしょ? ゴトーからウチにまで押しかけた友達がいたって聞いてたの。」

 キルアはきまりが悪いのか照れくさいのか何なのか、大袈裟に眉をひそめている。

「……それより、戸愚呂はこんなところで何してんだよ。」
「あたし?」

 そりゃあ、オークション、なんだろうけど。
 彼女が手にしているのは「必殺! とても面白いギャグ漫画」とタイトルの刻字されている本だった。値札が重ね貼りしてある。わざわざ競り落としたのだろうか。
 戸愚呂さんはさも当然とばかりに言い切る。

「だって、そこにキルがいたから。」
「オレは山か何かかよ!」

  キルアは鋭くツッコミを入れている。こんな風に翻弄される彼を初めて見た。
 何というか、彼女のことを簡単に言い表すとしたら、女版キルア……って感じだ。そのぐらい同じ遺伝子をひしひしと感じさせられた。

「キルの方こそ、」

 そう言いかけて、戸愚呂さんの携帯がチカチカ点滅した。彼女はすかさずそこに意識を向けたようだが、内容を見てたちまち顔を曇らせる。
 何気なく見えたディスプレイには「ジャイアン」の文字が。

「やだ、ダーリンから催促の連絡だわ。 あたしもう行かないと。」
「あー、行け行け! これ以上人様に迷惑かけない内にな! 間違っても猿山には帰んなよ!」

 戸愚呂さんは顔も見ずにキルアの頭をはたくと、オレに向けて微笑んだ。

「じゃあね、ゴンくん。 ワガママな子だけどこれからも仲良くしてやってね。」
「はい、えっと、こちらこそ。」
「……ッテ〜、本気で殴りやがって。 」

 戸愚呂さんは颯爽と手を振ると、オレ達とは反対方向へ進み始めた。その後ろ姿は、すぐに人混みの中へと紛れて消えてしまう。

「……なんか、嵐のような人だったね。」

 でも、良いお姉さんだね?
 素直にそう思って付け加えてみたが、「あ?」とキルアは不服そうな声を漏らした。しかし、「ま、イルミとか他の連中に比べたらな。」とブツブツ呟いている。
 やっぱり、仲が良いんだな。キルアの家族にも、少なからず味方になってくれるような人がいたんだ。少し安堵した。

「クラピカとレオリオも会えたら良かったのに。」
「あ!? ゼッテー無理だって。 アイツあれでもかなり猫かぶってたからな。 レオリオはまだしもクラピカとなんて死んでも馬合わねえから、むしろ会わなくて正解!」

 そうかなあ? 案外、大丈夫な気がするけど。
ペンギンは空を泳ぎたい
170618