飛行船内のバーは思いの外賑わっている。そのカウンターでは、明らかに異質ともいえる二人組が不穏な会話を交わしていた。
「あぁ、そういえば。」と酒を呷りつつ片割れであるヒソカは突如話題を切り替えた。問答の中で、彼は何かを思い起こしたらしい。
「戸愚呂って、クロロと出来てたんだね。」
「え?」
イルミがグラスを動かすと、溶けだした氷がからんと音を鳴らした。恐らく一部の人間にしか伝わらない変化であろうが、彼はやや目を開いているので驚いているようだ。
「アレ? もしかして知らなかったのかい?」
「それは、どこからの情報?」
「本人が言ってたよ。 26歳の黒髪の男が性癖だ、って。」
「……ああ、それは昔からだよ。」
ほんの小さい頃からの、戸愚呂の崇拝する信仰の内の一つだから。 そもそも引きこもりのアイツがクロロと面識があるとも思えないし。
イルミはそう冷静に分析したが、ヒソカはそれに対し異議を唱える。
「いや、あれは十中八九クロロのことだと思うよ。」
彼に固執してるボクが言うんだから間違いないよ、と何故かヒソカは自信満々だ。
「兄妹だからこそ、近すぎて見えないってこともあるんじゃない?」
「どうせヒソカは戸愚呂に興味ないだろ。」
「ボクは柔軟に発想を変えることのできる人間だからね。 戸愚呂の良い活用法について色々と考えてみたんだ。」
ヒソカは、周囲から忌避される特有のいやらしい笑みを作って見せた。
「でも、予定が狂ったよ。 クロロのお手付きだったなんてね。」
生々しいよね、知ってる相手だとさ。ま、それも逆にアリだけど。
けどきっと、戸愚呂が憐れに鳴いてくれたら物凄くキュートに映ると思うんだ。
嬉々として、ヒソカは言う。
「勝手な憶測で戸愚呂を測らないでくれる?」
「へェ、厄介者の妹はどうでも良かったんじゃないの?」
「誰がそんなこと言った?」
戸愚呂はヒトに対しまるで興味を抱かない。突き詰めると、単なる物質としてでしか見ていなかった。王子なんて、本心から必要としていたことなんて決してない。しかし、左手から血を溢れさせながらも確かに幸せそうに微笑んだのだ。
イルミはすっくと立ち上がると、闇にまみれた特異な瞳でヒソカを一瞥した。その“色”は、やはり戸愚呂と酷似している。
「戸愚呂を一番理解してるのは、オレだよ。」
イルミは冷淡に宣言すると、勘定もせずに店を後にした。
コウモリの意趣返し
170714