※やや卑猥表現あり。








 一分の隙間すら許さず、みっちりと。
 まるで体内を遊泳するかのように、あたしの腹部にはクロロが埋まっていた。質量と硬度を増したそれは反応を確かめるように湿った内部を執拗に擦る。
 ただ生殖器を合わせているだけの行為なのに、相手が彼であるというだけで子宮の奥からつぅーんと痛くなって、自分がどうしようもなく女であることを自覚する。腹の底から様々な感情が入り乱れてきて、とても困った。苦しい。わずらわしい。鬱陶しい。切ない。寂しい。今まで馬鹿にしてきたあらゆる感情を引っくるめたって、
 こんな男のことを…………。
 人間として大切な何かが欠如している、ろくな男ではない、にも関わらず。たった一人の相手として、身体が、精神が、あたしを形成する全てが、クロロを求めて止まなかった。

「好き。 ……クロロの顔。」

 彫刻のように綺麗な頬を撫でると、彼はこちら側に意識を戻した。「顔、か。」とわずかに苦笑を滲ませて。

「そう、だめ……?」

 含みを持たせた視線に尋ねるも、彼は「いや、」とおざなりな返事をするだけだ。何か物言いたげな様子を見せたものの、彼は大人しく律動を再開させた。もう、どうだっていいの。全身を揺さぶられて、快楽の波に飲み込まれると思考が呆気なく止まるから。唯一感じるのは、五感で得た情報だけで。掛けられた身体の重みとか、熱気の上がった体温とか荒々しい息遣いとか、薄っすら汗ばんだ肌だとか。奥から覗く残酷な瞳とか。
 彼の額に色っぽく髪が貼り付いて、一層その十字架の印象を際立たせていた。嗚呼、益々欲情してしまう。

「戸愚呂。」

 クロロに名前を呼ばれて、触れられて、あたしは初めて自分という存在に気付く。滲んだ世界を誤魔化すため、ゆっくりと瞼を閉じた。

 ◇

 情事後、退屈な空気に耐えきれずクロロの頬を指でなぞった。まるで陶器みたいに彼は身じろぎも抵抗もしない。しかしながら、ほとほと呆れ返ってしまう。こんな26歳児、有り得ないだろう。可愛さが一段突き抜けている。
 足を踏み入れたことが無いから、どういう場所なのかは想像もつかないけれど、流星街とは案外素敵な宝の山なのかもしれない。平然とこんなに美しいものが捨て置かれているんだもの。彼を育てたゴミ山に軽い嫉妬すら覚えてしまう。
 しかし、どこをどう間違えたらこんな男が産まれ落ちてきてしまうのだろうか。疑問でしかない。
 身を寄せてクロロの唇に軽くキスを落とすと、彼はやや面食らった表情をした後、何故か恨めしげな視線を寄越した。

「……やっとしたな。」
「え?」
「お前から。」

 一瞬何の指摘を受けているのか理解出来なかったが、どうやらキスのこと……らしい。そんなことはまるで脳裏には無かったし、まさかクロロがそんな勘定をしているとも思わなかった。意外と根に持つタイプなのか、この男は。何年越しなのかは知らないけど。

「……ふん、どうせキレイでナイスバディなお姉ちゃん達に沢山して貰ってるからいいでしょ。」
「お前以外の女とは、何年も寝てない。」
「えっ。 ……マジで?」
「マジだ。」

 そうやって黒々とした瞳で実直に見返されると、別段悪どいことをしているわけでも無いのに何故だか罪責感を覚えてしまう。どう考えたって、あたしが焦るのはおかしいだろう。

「だって、綺麗な女の人に声かけられたりするでしょ?」
「容姿だけが全て、というわけじゃないだろ。
 お前は色んな男をつまみ食いしてたみたいだがな。」
「し、してない! 未遂だから!」

 う、やぶへびだったか、この話題は。でも、でも、天地神明に誓って他の男と行為に及ぶなんてこと、クロロと出会ってから一度だって無かった。少しも。これっぽっちも。あったとしても、ちょっとした事故程度のものだ。言い訳では、ない。
 ―― だって、だって。あたしは、あたしが許せるのは、

「クロロだけ、だもの。」

 言葉として産出してしまったら、取り返しがつかないような気がして、ずっと口に出来なかった胸の内の一つだった。迷惑をかけたくない。でも、真っ当に人間でありたい。後悔したくない。楽になりたい。馬鹿らしい、さながら安っぽい恋愛映画の登場人物にでもなったような気分だ。
 しかしクロロは「戸愚呂、」と熱っぽくも真剣な眼差しであたしを捉えた。

「オレは、誤魔化したくない。」
「……うん。 本当は、あたしも。」

 鼓動の音がうるさくて、けれど今度は自分自身を偽りたくなくて。
 己の情動と正直に向き合ったらあたしの両眼からは自然と涙が膨らんできて、ほたほた頬を流れ落ちた。熱く、湿っている。
 こんな風にすぐに泣く女、あたしは好きじゃない。けれどクロロは存在を確かめるように優しく抱き締めてくれた。頭を撫でる手がひどく気持ち良くて、幼子みたいに彼にしがみつく。それでも止まらないあたしは、しゃくりをあげて泣いた。

「クロロ。」

 どうかお願いだから、あたしを殺して欲しい。
 痛みを感じる暇なく一思いに首を刎ねるとかじゃあなくて、時間をかけてじわじわ痛ぶって欲しい。血の一雫さえ丁寧に攻め抜いて欲しい。その方がクロロに殺されてるって感覚を、しっかり味わえるでしょう。
 あたしが最期に目に映す景色は、クロロでありたいの。
本能と贖罪と、
170718