「パパ! 戸愚呂ね、運命の王子様を探しに行ってくる! それまで家に帰ってこないから!」

 今年16歳になった娘は、妻・キキョウに酷似している。容姿も、性格もそっくりであり、我が娘ながら器量良しなことには違いないが、やはり問題はその“思想”にあった。
 未だ妄信しているとは俄かに信じがたいが、16歳になった今でも「運命の王子様」を嬉々として理想に掲げるのはいかなものか。
 執事の中で唯一戸愚呂を御すことのできるツボネは「幼い頃に童話を読ませすぎたかしら」と嘆きの声をあげたが、夢見に浸るのがそこまで悪いとは思わない。

 オレが気に病むのは、“王子”を探すという一点だ。
 王子を探す……つまり言い換えるのならば、“男漁り”をしてくる、とも同義なのだ。
 思えば、確かに昔からそういう節はあった。お気に入りとなる執事は顔の整った若い男ばかりであったし、仕事のターゲットも“どうせ殺すなら男前な人が良い”と選り好みすることが多かったのだ。
 もしも戸愚呂が「この人が戸愚呂の運命の人なの!」と若輩者を連れ帰ってきたとしたら……自分がどのような行動に出るか全く予測がつかない。
 子供たちはそれぞれ大切にしているつもりだが、やはり“娘”はまた特別な存在であり、戸愚呂の嫁入り姿を見る度胸はまだ無いのだ。戸愚呂が男の慰み者になるなど……想像が及ぶところではない。
 それに、戸愚呂はこれまで外界ともまともに接触したことのない正真正銘の“箱入り娘”なのだ。何が起ころうと……世間知らずな戸愚呂が何をしでかそうと不思議はない。

 こうして延々と悩まずとも、頭から拒否権を発動するのは簡単だ。オレの命令であれば、戸愚呂は渋々ながら従うだろう。
 だが、そうやって押さえつけて戸愚呂の顔を曇らせたくはないし、戸愚呂の自由を奪う権利はオレには無いはずだ。

「……分かった。
 だが、気をつけて行ってこい。」
「はいはい任せて! じゃ、行ってきまーす!」

 ご機嫌に旅立って行った娘の後ろ姿を見送ると物悲しくもなったし、しかし成長を喜ぶべきなのか、と複雑な胸中に陥ることとなった。
 そんなことはつゆ知らず、唯一自分と血の繋がりを感じられる銀色の髪は、風に乗ってふわふわと揺れていた。
親の心子知らず
180313