※下品です
「ねぇ、男ってどんな時に欲情するの?」
二人分の体重がかかり、ソファはみじめに形を歪めた。オレの膝の上には、一人の女性が遠慮もなく腿を開いて乗りあげている。スカートであることも、まるで考慮していない。首筋に彼女の腕が回ると、鼻先が掠めそうになるくらい距離が近くなった。女のニオイがした。
ゴトー、とやけに耳に残る声で脳髄を刺激される。
「あたしって、そんなにキルアと似てる?」
「……ごきょうだいの中では、容姿は一番似ていらっしゃるかと。」
「なら、あたしのことも可愛い?」
事実、幼少期の二人の姿を比較すると見事なまでに瓜二つだった。父親譲りの髪色に、髪質。瞳の色や、感情の起伏が見えない、残忍な表情を浮かべる姿もよく似ていた。それはあくまで容姿、の話ではあるが。
「戸愚呂様は魅力的な女性でいらっしゃいます。」
例え、念入りに吟味した最高の賛辞を贈ろうとも彼女はオレの言葉で心を動かすことはない。そのため機械のような模範解答を述べた。
戸愚呂様は既に興味を無くしているらしく、耳には入っていないようだ。オレとの距離を更に詰め、柔らかな双璧を押し付けられて身動きが取れなくなる。
オレに出来る唯一の対処法は、ただ微笑みを絶やさないことだ。
「ゴトー、あたしと大人の遊びをしよう?」
「……殺されてしまいます。」
「大丈夫よ、誰にも言わないから。」
あたしのこと、可愛いでしょう? 妖しく目を細め、耳元で囁かれる。
簡単に誘惑に乗れてしまえば、どれだけ気が楽だったろうか。
「戸愚呂様に対し、雇用主以上の感情は持ち合わせておりませんので。」
「はー……ゴトーって、つくづく詰まんない男ね。 そのマニュアル徹底主義は何なの?」
「ご気分を損ねてしまい、恐縮の限りです。」
手を出す気なぞ更々ない、と態度ではっきり示すと戸愚呂様は思いきり顔をしかめて舌打ちをした。
「あー、もー萎えたわ。 あ、でもさー、もしもあたし好みの執事がいたらすぐに寄越してよね。」
「承知いたしました。 」
ゴトーってもう枯れてるんだ? ザンネンだねー。 と吐き捨てて戸愚呂様はオレから離れた。その解放感に、悟られないよう胸をなでおろす。
仮に彼女の誘惑に従って手篭めにでもしようとしたら、オレは間違いなく殺されていただろう。……戸愚呂様自身の手によって。
彼女は人を壊したい時に限って、甘えた猫撫で声を出すのだ。被害にあった執事が一体何人いただろうか。既に数えるのはやめてしまったので、正確な人数は把握はしていないが。
しかし、惜しいことをしたかな、と考えてしまうあたりオレも大概バカなのだ。
男娼とアイアン・メイデン
180705