しん、と静まりかえった森林地にて。地面に腰を下ろしおもむろに闇夜を見上げた。そこには今にもはじけ飛びそうな星達が存在を主張するように瞬いていた。きらきらと強弱をつける何万光年も彼方の光陰を楽しむ。心が浮き足立ってしまうのも仕方がない。
 そんなあたしを諌めるためか、さわさわと夜風が頬を撫でていき、仄かな土の香りをほうぼうへと運んでいた。

「気に入ったか?」

 その光景に目を奪われていると、隣に腰かけている男がにわかに尋ねてきた。

「うん、とっても。 ……綺麗。」

 理由も述べずに急に連れ出されて、頭の中は疑問符だらけでこの場に来たわけなのだが、却ってそれが功を奏したのかもしれない。より五感が研ぎ澄まされたような気がする。
 この男は案外ロマンチストの気があるのだろうか。それとも、センチメンタルな気分に浸りたいのか。美しい物を愛でる気持ちは全人類共通の特徴かもしれないが。

「これが、クロロが女を口説くときの手段なの?」
「今更お前を口説いたところで、どうにもならないだろ。」
「ん、確かにそうね。」

 野暮なこと訊いて悪かったわ。
 しかしながら、だ。まさか自分がこういった無駄な時間を有意義に過ごせる日が来るとは思いもしなかった。新たな発見だ。
 暗がりの中クロロをちらと伺うと、間を置かず目が合った。その眩さに、吸い込まれそうになる。

「冷えてるな。」

 頬に手を添えられ、一言。彼の瞳に星芒が映り込んでいて、一層その美しさを際立たせていた。
 戸愚呂、と。緩やかにクロロの気配が近付いてきて、しっとりと唇を塞がれた。やわく下唇を食まれて溶接したように口付けは深くなる。単調なものから、徐々に動作は複雑化してゆく。
 舌で口唇をこじ開けられて、内部をまさぐられて。唾液ごと舌を甘く吸われ、吐息が鼻から抜ける。柔らかくも、艶のある感触に背筋がぞくりと震えた。

「ここでお前を殺したら、誰にも知られることはないだろうな。」

 クロロは目を伏せて、愉快そうに洩らした。そんな彼に、心がうわずってしまう。
 きっと、瞼を閉じたら星を見失うわ。けれどあたしは、そんな真似ご免よ。
ブラックアウト
170713