「あっ。」

 と思わず声を漏らしてしまうほど、そのエビチリは美味しかった。
 あたしはなんて狭い世界でふんぞり返って生きてきたのだろうか。これまでの半生を恥じるべきだ。
 そんな頓狂な声をあげたせいで、周囲の視線はたちまちかき集まってあたしに注がれてしまった。古ぼけた小さな中華料理屋の、時計の針が真夜中を刺そうかという時間帯であったため、視線といってもたかが知れたものであったのだが。
 ―― ここで唐突ながら、あたしの性質の話をしようと思う。あたしは、他人を顧みない主義の人間だ。幼少時から何万回も「お前は自己中を改めろ。」と家族に指摘され続けてきたし、自分でも多少はその自覚はあった。(一昨日もそうやって怒られたばかりだ。)
 ―― しかしながらあたしが自己中を発揮するのは近しい人間(家族・執事など)だけであり、赤の他人に対してはきっちりと猫をかぶるのである。
 詰まるところ、あたしは恥じ入ってごほんごほんとむせるフリをした。本当はあたしに関心を向ける人間なんていないと分かってはいたけれど、そうしなければあたしというチンケな人間を保つことが出来なかったのだ。
 もう一度、ぷりぷりとした身を味わう。衣にきいた出汁と、絡まったチリソースが絶妙だった。確かな甘みの後に、引き立つ辛さが追いかけてくる。職人の仕事だ。

「おっ、こりゃ美味い。」

 カウンターの二つ隣の席から声がした。そこには大小二人の男が並んで座っている。
 あろうことにガツガツと“飯を掻きこむ”その様子に品がないなぁ、なんて思ってちらりと横目で追ってしまった。それは一瞬のことであったけど、あたしの視線に気付き男もこちらを見返してきた。
 あたしと違ったのは、不躾にもジロジロとこちらを観察し始めたことである。え、何? なに?

「……どっかで見た顔だな。」
「え、ナンパ?」
「あ!? ちげえよ、テメーなんかに興味ねえっての。」

 だってそんな文言吐かれたら、ナンパの手口としか思えないじゃない。っていうか、コイツ物凄く図々しくない? ピッコロ大魔王みたいに眉毛ない不細工ヅラしてさ。

「ただ、お前の面構えがどっか引っかかるだけだ。」
「は? 前世で会ったってくっさい台詞吐こうって?」
「だからテメー、自意識過剰かよ!」
「じゃ、生まれ変わったら一緒になろうね?」
「セイコじゃねえんだよ、オレは!」

 思いきり舌打ちをされてカンに障った。
 んなこと見りゃ分かるわ、ボケ。いっそ死んで小綺麗に生まれ変わって来世でやり直してこいや。

「お前、ムカつく女だな。」
「お互い様でしょ。」

 あたし達がバチバチと火花を散らす中、更に隣にいた男が独特のイントネーションで「コレおかわり貰うね。」と呑気な声を発した。
おいでませ、天国へ!
170713