弟がとある“闘技場”へ放り込まれた。わずか6歳で、だ。誰の目にも明らかな、父の期待の表れだった。
その埋めようもない“差”を感じ取って、いかに自分が甘やかされて育てられてきたかを思い知る。存在価値なんて、まるでない。
あたしは、こんな能無しがきらいだ。
「戸愚呂、これが次のターゲットじゃ。頭に叩き込んどけ。」
祖父から差し出された写真には、どこからか隠し撮りされた一人の男の姿が写っている。年の頃は25、26といったところか。黒髪で鼻筋の通った凛々しい顔付きをしている。……ずびっ。思わずヨダレが垂れそうになった。
「えーっ! 良い男! 殺すの勿体無い!」
「……戸愚呂。」
「はいはい、分かってますってば! 間違っても取り逃したりはしません!」
ゼノじいちゃんは、あたしが以前の仕事で相手を取り逃がしたことを未だに根に持っているらしい。なんでも殺し屋のコケンに関わるだとか何とか。結局、そのターゲットは兄の手によって抹殺されたのだけれど。
そりゃあ、ビジネスは確実に全うしなければいけないけれど、この少子化の時代に貴重なDNAを残したいと思って何が悪いのよ。心の声が漏れたのか、ジロリと睨まれる。あー、はいはい。どうせ屁理屈垂れてるだけですよ。
……まぁ、そんな余命幾ばくもない他人のことはどうだっていいのだ。
「それより、キルは元気にしてるかなぁ。」
「ん。 ま、アイツなら上手くやっとるじゃろ。」
「うん、あたしと違って出来がいいからそこまで心配はしてないけどさぁ……。」
はち切れんばかりの才能に溢れる弟。心底羨ましいし、同時に恐ろしいとも思う。だからこそ、あたしと同じ轍を踏まなければ良い。きっと、そうあって欲しい。
思い返しても気分が悪くなる。……あの少年の双眸には生への執念が覗いていた。敬意を表して、あたしは雑草を添えた。ただ、それだけのこと。
はぁ、何だか無性にキルアのことを抱き竦めてやりたくなってきた。少しだけでも、様子を見に行ってみようかしら。
そんな事がちらと頭をかすめたとき、祖父が白い目でこちらを振り返った。
「……戸愚呂、余計なことはせんでいいからな。」
あー、もう! 分かったから、少しは放っておいてよ。あたしだって、たまには考え事の一つでもしたいんだから。
少年の影がわらう
170509