「戸愚呂、コイツについてどう思う?」

 薄暗い廃墟の中。美術品カタログを片手に、眉目秀麗の男が尋ねてきた。黒髪をオールバックに撫で付けたその男は、今にも闇に紛れそうな黒いコートを羽織っている。
 地面に置かれたランプが淡く手元を照らす。古ぼけた、(すす)のついた小汚いそれがこの場にある唯一の光源だった。(政府の節電政策に協力しているわけではなく、単に電気が通っていないためのものぐさである。)

「……そうだね。 この壺と、この腕輪にはかなりの値打ちがあると思う。 この絵はまあまあ。売ればそれなりの値段がつくかな。でもあとは大したことない、ゴミ同然だね。」

 あたしは順繰りカタログに目を通すと、直感的に浮かんできた印象をそのまま述べた。
 この男、―― クロロ=ルシルフルはあたしの返答を聞くと「そうか、読み通りだ。」と綺麗な人差し指を唇に当て、口角をわずかに吊り上げた。気持ち悪いほど滑らかな動き。どんな所作一つとっても絵になる美術品のような男である。あたしが思わずその滑らかさに見入ったとて不思議はない。
 現在我らが潜伏している地域には小さな美術館がある。そこが次の仕事先なのだ。そして今まさに、頂こうとしている品物の算段をつけているところなのである。(ここの館長は地元の有志の中から選ばれた人間、だとか何とかカタログには記してあった。地域振興を目指しているらしい。そんなことはまるでどうでもいい情報なのではあるが。)

 ―― そして突然ではありますが、ここで少しばかり昔話を挟みたいと思います。みなさん、流星街といった場所はご存知でしょうか。
 見渡せど見渡せど大量のゴミに覆われているどうしようもない汚染地区ではございます。が、そんなところでも我が故郷であることに違いはありません。粗大ゴミから擦り切れたネジ、チリ紙やら処分に困ったと思われる動物の死骸など。大小バラエティに富んだ“ガラクタ”が世界各地から送られてくる肥溜め。それを余すことなく享受する、それが流星街なのです。
 しかし。その中に時折紛れ込む、きらりと光る原石。それらは“お宝”と称され重宝がられておりました。価値があるから外の世界では高価に取り引きされるのです。
 そして何故かお宝は自然とあたしの元に集まって来ました。高く積まれたゴミ山の中でも、お宝の在り処は手に取るように分かる。それがあたしがこの世で生きていくための唯一の手段、生まれ持った“目利きの才能”だったのです。
 クロロを始めとした幻影旅団の創設メンバーは、流星街時代からの腐れ縁。彼らはあたしの才能を高く買って、あたしを全面的に頼りとしているのです。悪鬼羅刹、獰猛なA級賞金首の彼らから頼られるなんて「気分が良い」なんて言葉じゃあ収まらない。ふふふ、自分が悪女になったような心地だわ。

 しかし、クロロは淡白に言った。

「戸愚呂、呼び出して悪かったな。 お前の役目は終わりだ。
 パクノダ、シャルナーク、美術館に乗り込むぞ。サポートを頼む。」
「えっ。 ちょ、待って、あたしは!? 一緒に連れてってくれないの!? わざわざこんな陰気くさいところに来させておいて!」

 必死にクロロにしがみ付くも、彼はにべもなく「お前は邪魔になるからな。」と言ってのけた。え、えええええ〜。さっき見栄きって格好つけたばっかりなのに! もうちょっと仕事デキる全世界の女子羨望の的間違いなしの“良い女の戸愚呂”でいさせてよ〜!

「戸愚呂って分かりやすい罠にも簡単に引っかかるし、正直言うと足手まといなんだよねー。」
「フォローしてもしきれないっていうかさ。」
「グズ過ぎて本気で殺してやろうかと思たことあるよ。」
「お宝には鼻がきくからギリギリで生かしておいてやってるだけだよな。」

 このやり取りを見ていた連中から、好き勝手な意見があがってきた。あたしは律儀にもその一つ一つの言葉を受け取って飲み込んでしまう。し、心臓にココロない言葉のナイフがざくざく刺さる! あたしみたいなナイーヴで大人しい女の子はこれじゃあもう立ち直れない!

「みんなヒドいよ! そんなどストレートに言わなくたっていいじゃん!」
「うるせえ。 鈍臭いお前が悪い。」

 な……何だって? 共に辛酸を嘗めて育ってきた仲なのに! 大切な仲間だと思っていたのはあたしだけだったっていうの!?
 ハッ! そ、そうだ……! 最後の砦、パクノダなら! 昔から凄ーく優しくて冷静でよく気が回ってあたしが男だったら絶対にお嫁さんにしたいとかねがね思っていたパクだったら! きっとあたしをこんな雑な扱いにはしないはず!
 そんな希望を抱きつつパクノダのほうを振り向くと、彼女は女神のような微笑みを浮かべた。

「戸愚呂、ちゃんと歯を磨いてお腹をしまって寝ないとダメよ。」

 OH NO! OH MY GOD!
 団員ナンバーすら与えて貰えないワタクシ、名前は戸愚呂。幻影旅団の面々にいいように利用されていると感じ始めたのはつい最近の話です。

170913