ケーキをたらふく食べて帰宅したところ、あたしのベッドでは一人の男が寝こけていた。柔らかそうな金髪をした、無駄に長身で筋肉質なアホの子である。
コイツもクソ男代表選手であるフィンクスと同様に合鍵を所持していたというわけか。まぁ、どうだっていいけど。
眠り姫(王子?)シャル様は、半径1メートルにしてようやくあたしの気配に気付いたようだ。すっかりぬるま湯に浸りやがって。子供みたいに寝ぼけ眼をこちらに向けている。
「あれ……? 戸愚呂?」
「あれ? じゃねーよ。寝ぼけやがって。 ここはホテルじゃないんだけど?」
「ごめんごめん、徹夜明けで眠くて。」
はふ、とシャルは欠伸を噛み殺した。一体何時間寝てたのかは知らないけど、シーツにシャルの匂いが染み付いてると考えたら何だかイヤな感じ。
「どこ行ってたの? ずっと待ってたんだけど。」
「シャルこそ何の用だったの?」
「良いワイン盗って来たから、戸愚呂にもお裾分けしようと思ってさ。 戸愚呂好きだろ?」
「マジ!? キミさいこー! アイシテル!」
シャルがベッドの脇からごそごそ取り出したのは、年代物の赤ワインだった。しかもあたしの大好きな銘柄の。さぞかし美味に違いない。今すぐ試飲したい。シャル様ってばあたしのことよく分かってらっしゃる!
仕方ないから、図々しくも未だあたしのベッドに腰掛けている件には目をつぶっておいてやろう!
「今日ケーキバイキング行ってきてさー、すっかり気持ち悪くなっちゃったから丁度口直ししたかったんだよねー! シャルのタイミング神がかってる!」
「うわ、戸愚呂らしいね。 その考えなしな感じ。」
「ヒーさんが顔色一つ変えずに食べるもんだから、すっかりそのペースに乗せられちゃって。」
“ヒーさん”というワードを出した瞬間、たちまちシャルは眉をひそめた。童顔だから怖くも何ともなかったけど。
「え? ヒソカと行ってきたの?」
「うん、そうだよ。 あたし、ヒソカと結構馬が合うみたい。」
シャルは脱力したように肩を落とし、一つ重いため息をついた。ついでにあたしに対し忌々しい目付きも向けて。
「……オレ、忠告したよね? そうやって誰彼構わず仲良くする癖直しなよ。」
「何で? それって悪いこと?」
「警戒心が足りないって意味ではね。
どこからオレたちの情報が漏れ出すか分からないんだし。」
「あー、そうですか。 保身のためですか。」
「当然だろ。」
うわ、ムカつく! シャルが合理的な人間だってことは百も承知だけど、そんな言い方しなくたって良くない!?
そりゃあシャルの言い分はもっともだけど、人間関係は本音だけじゃ成立しねえんだよ。 せめて建前を言えよ! あたしを心地良くさせる建前をよ!
「シャルのそういうところ可愛くない! 嘘でも“戸愚呂のことが心配”とでも言ってくれれば、あたしも素直に受け入れられるのに!」
「は? 何言ってるんだよ。 心配してるから言ってるんだろ。」
「……え、そうなの? 自分の保身のためだけじゃなく?」
「それもあるけど、オレほど戸愚呂を気にかけてやってるヤツもそうはいないと思うけど?」
―― しかも、ボランティアで。 とやはりシャルは余計な一言を付け加えたけど、あたしは単純なのでむずむず心が浮き足立ってしまった。
「そうだったのね? ありがとう、心の友よ! やっぱ持つべきものはシャルだわ。 一家に一台シャルだわ。 可愛いなー、ちゅーしてあげようか?
あたし、頑張ってもうちょっと慎重派になるよ!」
「はいはい。 分かったなら、とっととワインに合うアテでも作ってよ。」
「よっしゃ、任せとけ!」
あたしは脱兎の如くキッチンへ駆け込むと、うきうきワインに合うおつまみを考え始めた。やっぱりカプレーゼ? それともアヒージョ? アンチョビパスタなんてどうかな?
美味しけりゃ何だっていいけど、早くワイン飲んでハッピーにならなきゃね!
171014