これは、乙女の聖戦のリベンジマッチである。
カンカンカンカン! と頭の中では戦いのゴングがけたたましく鳴り響いた。視線を動かしターゲットを認識、ロックオン! なんと、瓦礫に腰かけ能天気に読書をしているではないか! よし、今が絶好のチャンスだ!
あたしは手首のスナップを巧みにきかせつつ、標的に向け小一時間かけ丁寧にラッピングした小箱を差し出した。
今回の獲物:クロロ=ルシルフル(20代前半♂)はまるで興味なさげに「見ての通り、お前の暇潰しに付き合ってやる時間はない。」と一言。
いや、見ての通りお前暇して本読んでるんだろうがよ、たまにはちょっとくらい付き合えや! ファッキン根暗野郎! とあたしが不満を抱こうとも少しも不可思議ではないだろう。何故なら、あたしは寝ていようがバイトしていようがシャワーを浴びてようが春夏秋冬・朝昼晩関係なしに突然「早く来い。 来なければ殺す。」と脅迫され、しかしそんな脅しにも屈せずにまるでレベル1の勇者が大魔王に丸腰で挑むかのように立ち向かう、と見せかけて逃げようとするも簡単に捕まって、挙げ句の果てに延々とお宝探しに付き合わされているんだから。(しかも汗水流してついでに鼻水も流しながら働かされている割にあたしの取り分はチョー少ないのだ。チョーベリーバッド!)
「そんなこと言わないで、少しは歩み寄る努力をしようよ!」
「面倒だ。」
ハイ! 皆さんお聞きになりまして? 必殺クロロの「面倒くさい」攻撃! あたしの積み重ねてきた努力をスパッと台無しにする最低最悪のセリフですよ。嗚呼、今日も涙が塩辛いこと!
こんの腹立つかわいこちゃんめ! こうなったら無理矢理にでもぶち犯してやるわ!
「ごめん、さすがにちょっと言い過ぎた。 でも少しでいいから! 先っぽだけでもいいから! 食べて下さいお願いします!」
本音と建前が全くあべこべですが、あたしは床に手をつき深々とこうべを垂れた。プライドやら世間体やらをかなぐり捨てた所謂土下座というやつですが、このポージングはあたしの十八番の一つです。
「中身はアップルパイなんですけど、物凄く上手く出来たものだからお上にも是非ご献上致したく思う所存でありまして。
っていうかウボォーもノブナガも美味しいって言ってくれたし! 毒味……お墨付きはもらってるから!」
ね! と同調を求めるが、クロロは顔色も変えず「要らない。」と言う。おいおい、どうしてキミの心はそんなに頑ななんだい。うぉううぉう。
「……何で? せめて理由くらい聞かせてよ。 これじゃあたしがバカみたいじゃない。」
「そうだな、お前はバカだ。」
あ? そこは同調すんのかよムカつくな畜生。っていうか、本当に何で? あたしの料理の腕はうなぎ上りに向上してるし、旅団のみんなもそこだけは評価してくれてるっていうのにどうしてクロロはこんなにも拒否するの? あたしは一切の踏ん切りをつけたいっていうだけなのに!
……とアレコレ考えたところで、あたしはとある“女”の存在を思い出した。
「あれ……もしかしてクロロ、彼女に悪いとでも思ってんの?」
「…………。」
クロロは返事をせず本のページをめくった。えーと……無言は肯定ってことでよろしいでしょうか、キャプテン?
「クロロの彼女って料理上手なの? それとも下手? ああ見えてクロロに尽くすタイプ?」
「……アイツはオレに贈り物をしようなんて殊勝なことは考えない。」
マジか! まさかクロロが尽くしてる立場!? THE・自分勝手集団の筆頭クロロなのに? そんなのらしくない! プライドどころの話じゃなくて、いっそのことアイデンティティー捨てすぎじゃない?
そして更に、クロロは衝撃の一言を付け加えたのだ。
「それに、アイツは彼女じゃない。」
えっ、ええええええええー! まさかのクロロの片想い? ワンサイド・ラブ? 毎晩報われない恋に胸を痛めてるの? ベッドの中で甘酸っぱい気持ちに浸り込んだりしてんの? マジかよ。もっと頑張れよ、お前。諦めんなよ。どうしてそこでやめるんだよ。頑張れよ! 諦めてんじゃねえよ! ダメだダメだ! どうして出来ないって決めつけんだよ! 積極的にポジティブに生きろよ! 男気見せてみろよ! 出来る出来る絶対出来る! だからもっと! もっと熱くなれよおおお……!
……あ、あれ? あたしは一体? 修造?
171023