「おかしい、おかしいんだよ……。 普段だったら“ぷよぷよ貸してー”とかすっごく下らない連絡寄こしてくるのに、ここ3日間何の音沙汰もないんだよ? 何で? こんなこと初めてなんだけど。 やっぱり怒ってるのかな。 でもそんな怒るような内容じゃなかったと思うんだよね。 でもでも、あたしもしかして知らない内に物凄い地雷踏んでたりしたのかな?
 ねぇ、マチちゃん! どうしよう! どう思う!?」

 と、勝手に一人お悩み相談室をおっぱじめたのは、常に想定外のマヌケをやらかす戸愚呂だ。
 こんなヤツでも一応は仲間であるため、内容が内容なら話くらい聞いてやろうかとも思ったが、戸愚呂に限ってそんな大層な悩みを持ち合わせているわけもなかった。一体この数十秒のやり取りだけで人生の何%を無駄にしただろうか。出来るのであれば、利息をつけて返してもらいたいものだ。
 そして、その肝心の内容にまるで興味をそそられなかったため、頭から丸ごと無視を決め込みたかったが、真正面から必死な形相でしがみつかれてしまっては逃げる暇もなかった。だが、あえて返答するのであれば「そんなことは知らねえ」である。
 そもそも、アタシに吐露している時点で間違っていることに何故気付かない? 明らかな人選ミスだろう。(慰めの言葉が欲しいのならニャンちゅうワールド放送局にでもお便りを出せば良かったんだ。そしたらあの特有のダミ声は意気揚々と何かを語りかけてくれたことだろう。アンタの希望通りの言葉が返ってくるかは知らないけどさ。)

「つうかさ、それアンタから連絡取れば解決する問題だろ?」
「マチちゃんは見てないからそんな無責任なことが言えるんだよ! あのただならぬ様子をさ!」
「それこそアタシの知ったこっちゃないね。」
「マチちゃん冷たい! ひどい!」
「ハイハイ、冷たくて結構。」

 たった3日間便りがないだけで、それが何だっていうんだ。テメェは遠距離に泣く女子中学生か? とっくに成人過ぎた女が抱くような悩みじゃないだろ。
 今では携帯電話が台頭してしまったため、すっかり有り難みが失せてしまったが、文通で距離を埋めていた時代だって確かに存在したのだ。たった72時間の空白を置いただけで騒ぎ立てるほうがおかしい。
 いや、本質的な“問題”はそこではないのだろう。

「アンタたちってさ、」
「うん、なに?」
「……いや、何でもない。」

 戸愚呂は途中で言葉を切ったアタシに不思議そうな視線を向けた。子供の頃から変わらない無垢な瞳に、少しだけ怯みそうになる。
 だが、どう考えてもこの判断が正解だ。余計なことに首を突っ込むものではない。自分にどんな火種が降りかかるか分かったもんじゃないし、これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁である。

「そもそも、“シャル”はいちいちそんな事にこだわらないと思うけどね。」
「そうかなぁ、シャルって案外根に持つタイプだと思うんだよね。 こないだだって自分があたしんちの冷蔵庫に黙ってビール置いてったくせに、“何で勝手に飲むんだよ”って後からずーっとくどくど言ってきたし。 勝手に人の家に忍び込んでなけなしのスペース奪ってったくせに、むしろ文句言いたいのはこっちだよねえ?」
「……あっそ。」

 そんな話を聞かされたところで、念頭に浮かぶのは“どうだっていい”という一言だけだ。アタシには一切関係ない。二人で自由によろしくやるのは一向に構わないが、周囲の迷惑を省みない行動を取るのだけは止めてもらいたい。
 はぁ、いよいよ面倒くさくなってきた。 こんな馬鹿話に応対するのもかったるい。

「戸愚呂、アンタのケータイ貸しな。」
「え? な、なにする気? 架空請求?」
「こうやってウジウジしてても埒が明かないから、アタシが代わりに連絡取ってやるよ。」
「で……でも、なんて切り出すの?」
「“飲みに行かない?”とかいつも通り聞けば良いだろ。」

 でも、となおも渋る戸愚呂から手早く携帯を取り上げると、シャルに向けて簡素なメッセージを送りつけてやった。戸愚呂は「あぁっ!」と大げさな声を発したが、これは完全に無視しておいた。

「なんてことするのマチちゃん! ちょっと横暴だよ!」
「このほうが手っ取り早いだろ。 これで何も返事がなかったら、アンタがシャルの地雷踏んだの確定ってことで。」
「本当マチちゃんって鬼なの!?」

 と、戸愚呂はアタシを非難しかけたが、ほどなくして携帯が点滅したのを見てそちらに気を取られたようだった。
 まじまじと画面を覗き込んだ戸愚呂の顔にはじわじわ喜色が浮かび始めたので、状況は一目瞭然だった。
 戸愚呂同様携帯を覗くと、画面には“いいよ”の三文字が。本当に分かりやすいヤツ。

「わ! マチちゃんすごい! ありがとう! シャル怒ってなかったんだ!
 本人は気にしてるけど相手は割とそうでもなかった、ってパターンだったんだね!」
「はい、良かったね、これで解決。
 じゃ、アタシはこれで。」
「え、待ってよ! どうせならマチちゃんも一緒に飲みに行かない?
 いっそフィンクスとか暇そうなヤツらも集めてアジトで酒盛りするってのもいいかも!」
「いや、めんどいからアタシはパス。」
「え〜! 何で〜! たまには一緒に飲もうよー!」

 安堵した様子の戸愚呂は、すっかりいつもの調子を取り戻したようだ。
 悪いけど、アタシはアンタ達と違って時間は有意義に使いたいもんでね。だって、1日はたったの24時間しかないだろ?

180304