今夜は盛大な夜宴である。
 ビールにウイスキーにワインにジンにと、ありとあらゆる酒を両手一杯に携えて我らがアジトへ足を踏み入れた。ガラス製の酒瓶がぶつかり合ってカチャカチャ甲高い声を上げたが、誤って割れたりしなきゃそれで良いだろう。いや、割れたって多少は良い。っていうかぶっちゃけ何でも良い。そもそも、気をつかうような相手でもないし。
 そうやって粗雑な準備をしつつも、相変わらず殺風景なホームを見て、今度おちゃらけた電飾でも置いて楽しい雰囲気にでもしてみようか、と思案していたところ予期せぬ人物と鉢合わせた。

「あれ、クロロ。 何してんの。」
「お前こそ、その大量の酒はどうした。 ヤケ酒は身体に毒だぞ。」

 どうやら愛蔵書を取りに戻ったらしいクロロは、これまた小難しそうな古書を手にしていた。
 本、本、本って、キミは本当に本ばかりの一本気な人生だね。もしかして他にしたいことがないのかい?
 っていうか、ヤケ酒とか馬鹿なこと言いなさんな。

「空しく一人でこんなに飲むわけないでしょ! これは酒盛り用のお酒なの!」
「酒盛り?」
「そうそう、みんなで宴会しようって話になって。 クロロも暇なら来る?
 ちなみに確定してる参加メンバーはシャル、フィンクス、フェイタン。 仕事が片付いたらって条件でノブナガとウボォーも来るかもって。」
「いや、悪いがオレは先約がある。」
「はぁ〜ん。 “先約”、ねぇ。」

 そう言ったクロロの響きがどことなく嬉しそうだったので、恐らく例の彼女と“おデート”にでも行くのだろう。けっ、小憎たらしい。

「これからうきうきランデブーですか。 あたしをこっぴどくフったくせに、良いご身分ですなぁ。」
「フった? 何の話だ?」

 かー! これだから天然ボケかます野郎は嫌いなんだよ。
 意味が分からない、とクロロはキョトンとした顔付きをあたしに向けた。昔はよく見せていた、クロロの素の表情だ。男にしておくには勿体ないくらい黒目が大きくて羨ましい。そんなつぶらな瞳で、そ、そそそそんなに可愛こぶって見つめたってあたしには効かない、効か、きか……ギャーアアス! 効果はばつぐんだ! 戸愚呂は53万のダメージを受けた! 戸愚呂はめのまえがまっくらになった!
 ……じゃなくって、許せねえ! 人の皮をかぶった悪魔め!

「テメー、この期に及んでしらばっくれる気かよ! あたしがクロロを好きだったってのは周知の事実でしょう!?」
「……そうなのか?」

 な、なんだってえーッ!
 まさか! ここにきて! 重大な真実が発覚! あたしのピュアでキュートな桃色片想いが肝心な本人に伝わっていなかったとは!
 クロロは依然として皆目見当がつかない、ととぼけた表情を崩さないでいる。

「え、そりゃあ冗談キツいよ旦那。
 あたし頑張ってアタックしてたでしょう? 全く気付かなかったの?」
「……例えば?」
「えーと、クロロの服のほつれたとこに黒猫の可愛いアップリケつけてあげたり、クロロの嫌いな物代わりに食べてあげたり……?」
「…………。」

 なんだか自分で言ってて自信がなくなってきた。アタックとは、一体。
 ロードローラーだッ! と重機で承太郎を押しつぶしたDIO様ばりに恋心を相手に押し付けるものではないのか。それとも、「だけど涙が出ちゃう、女の子だもん」とスパルタ指導にめげることなく熱血バレーに打ち込めばアタックNo.1認定されるのか。けどこずえ、あんたのアレは人間業じゃあないよ。
 混乱するあたしをよそにクロロはしばし黙考に入ると、脳内で解を得たのかあっさりと二の句を継げた。

「勘違いだろ、お前の。」
「……は? 何が勘違い?」
「要するに、お前はオレに擬似恋愛のような感情を向けていただけだ。」
「いやいやキミね、人の気持ちを勝手に勘違いで片付けるもんじゃないよそりゃ。」
「なら、確かめてみるか?」

 にやり、と笑ったクロロに急に腕を引かれ正面から抱き込まれた。背中にクロロの大きな手が当たる、と思いきや古書の固い感触がした。うん、ハードカバーってやっぱ痛いのね。
 っていうか、なにがしたいのコイツ。 とクロロに怪訝な瞳を向けると、あたしの身体は容易く解放された。

「ほらな、何とも思わなかっただろ?」
「え、どういうこと?」
「少しでもオレに思うところがあれば、お前の反応は多少は変わっただろう。 だがお前の平常心は崩れない。
 オレに気がない証拠だ。」
「そ、そういうもんなの……?」

 だってクロロは一番信頼のおけるリーダーで、頼り甲斐のあるクロロがいるだけで安心感があって、そんなクロロに緊張感を抱くほうがおかしいじゃないか。

「でもあたし、昔からクロロが大好きだったし……。」
「なら、他のヤツらはどうだ?」
「……そりゃあ、」

 マチちゃんとパクは女同士仲良くしてくれるし、フィンクスとフェイタンは意地悪だけど一緒にいると楽しいし、フランクリンとノブナガとウボォーはケンカでバカばっかしてるけど何だかんだ仲間を大切にしてて優しいし、他のみんなのことも大好きには変わりないけど。
 けど、あたしがクロロに抱いていた恋心がまさかのパチモンだったなんて、ちょっとショックだ。この十数年の年月はまるで意味なしだったってこと? それじゃあ、恋って一体何者なの?
 今度恋愛講座でも受けに行こう。甘いロマンス映画でも観に行こう。もっと勉強しよう。

「お前はいささか頭が足りない。 そうやって“思い込み”だけで行動するからすぐヘマを踏むんだ。 」
「へぇ、ここにきて仕事のダメ出しかい? これでもへこんでるんだから、追い討ちなんてかけないでくれよ。」
「断る。 お前が使える駒でいてくれないとオレが困るからな。」
「ほんとキミってワガママだよね。」

 さすがは自分勝手集団の筆頭だよ。自分だって空しい片恋してるくせして、人に優しく出来ねえのかよ。たまにはあたしの心も慮ってくれよ。

 容赦を知らないクロロは、「それはそうと、」と思い出したように何やら話題を付け加えた。

「戸愚呂、お前やっぱり胸がないな。」
「はぁ!?」

 前置きするから何かと思ったら、テメーもそういうクチだったのかよ! やっぱりって何だよ! 内心ずっと思ってたのかよ! しかもちゃっかり確認してんじゃねえ! 死ね!
 わたくし、乙女代表戸愚呂は男性不信まっしぐらです!

180313