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 戸愚呂とは物心つく前から一緒にいるのが当たり前だった。友達のようで、家族みたいに仲が良くて。この関係性をどう形容すればいいのか分からないほどに。

「戸愚呂も早く来いよ!」
「うん! 今行く! 待ってて!」

 遊んだり勉強したり、森の中を走り回ったり、時には長老の家にイタズラを仕掛けたりと数えきれないくらいの思い出を共有してきた。とにかく毎日が楽しくって、よく笑いあって。自然に溶け込むような彼女の笑顔は、不思議ときらきら輝いていた。蜂蜜みたいに、綺麗に透き通っているようにさえ思えた。
 パイロと、戸愚呂と、ずっとこんな日常が続いていくのだ。そう思っていたのだが、何故だかここ最近は上手く歯車が噛み合わなくなっていた。繋がっていた線が、ぐちゃぐちゃになる。
 互いの性格が性格なだけに、ソレがどちらから始まったのかなんてもはや思い出せやしない。果たして競争相手と呼称するのが正しいのだろうか。戸愚呂とは、顔を合わせると互いに憎まれ口を叩き合う間柄となってしまっていた。

「クラピカってまだピコも乗りこなせないの? ダッサ!」
「何だよ、ウルサイなー。 あっち行ってろよ!」

 地走鳥(ピコ)は割合穏やかな気性の持ち主であるが、子供の背丈と比較すると何倍もの大きさがあるので、乗るのにも一苦労だった。オレが手こずる姿を見ると戸愚呂はにやりと嫌な笑い方をして、ヒョイと簡単そうに飛び乗って見せた。しかも挑発するように上から得意げな表情をする。
 負けず嫌いのオレはそんな態度を取る戸愚呂が許せなくて、彼女のことを思いきり睨みつけた。だが戸愚呂はひるむことなく「悔しかったらクラピカもやってみなよ! 出来るもんならね!」と憎たらしく続けるので、すっかり頭に血が上ってしまうのであった。

 ◇

「ムカつく、戸愚呂のヤツ!」

 感情に任せて小石を蹴り上げるも飛距離は思いの外伸びず、ぽちゃりと虚しい音を立てて川へと落ちていった。
 まぁまぁ、と怒るオレを諌めるのは専らパイロの役目だ。パイロからしたら八つ当たりされているも同然なのできっといい迷惑だったろうに、幼いオレはそんなことにも気付けない。

「誰だよ! 女はか弱い生き物だから守らなきゃいけないって嘘ついたヤツは!」
「“大人”は口を揃えて言うよね。 戸愚呂は女の子なんだから、ちゃんと優しくして守ってやれって。
 ……ボクも、割とそう思うけど。」
「何言ってんだよ! 走るのだって、木登りだって、オレ達よりも戸愚呂のほうがずっと速いじゃないか! 守ってやる必要なんてない!」
「うーん。 それは……まぁ、そうなんだけど。」
「やっぱり戸愚呂なんて敵だ! 敵!」

 あんなヤツ、可愛くない! 女らしくない! ムカつくだけだ!
 そう噛みつくように言うと、「そんなことないよ。」とパイロは静かに答えた。
 その言葉の真意は、まだ知らない。

170804