■ Prologue


「野暮用だ、付き合え」

 クロロによって連れてこられたのは、お嬢様育ちのあたしには縁もゆかりもない、しけたネオン・ライトが瞬く歓楽街だった。
 どうしてあたしみたいに高貴な人間が、このような低俗な地に足を運ばなければならなかったのだろうか。

 デートにそぐうとは到底思えない。下賤な盗賊団のリーダーの思考回路は、どうあっても理解できなかった。
 あたしの利用価値がないと見做して、風俗にでも売っ払おうっていう魂胆か。それとも、あたし好みのホストを見繕って色狂いにでもさせようってか。
 冗談じゃない。後者は確率的に充分あり得るぞ。

 往来は、小綺麗で淫靡な格好をした呼び込みのお姉ちゃんや、安っぽいスーツで着飾ったキャッチのお兄さんで溢れかえっていた。
 ―― あ、あの男の子可愛いかも。
 と、一瞬目を奪われたのも束の間、前方を歩いていたクロロは急に足を止めた。

「ここだ」

 彼の視線の先からは、酷く禍々しいオーラが漂っている。きっと、いや確実に、初見では決して足を踏みいれようとは思わなかっただろう。“腫れ物”には触れるべきではないのだ。
 妙に堂々と構えたその店は、ある意味ここで一番選択して欲しくない場所であった。一層のこと、キャバクラやガールズバーであったほうが幾分かマシだったくらいだ。
 どぎついピンクで、ギトギトのパープルで彩られた悪趣味な看板。“店名”は蛍光イエローの電飾でチカチカ点滅しており、本能に従った羽虫が寄ったり離れたりを繰り返している。

「え、……ここって?」

 あたしの困惑の色を察知してか、クロロは苦々しく呟いた。

「だから……“野暮用だ”、と言ったろ」

 なによ、自分で連れてきたくせに。扉を開けるのに躊躇するなんて信じらんない。
 予防接種を嫌がる子供じゃないんだから、そんな怯んだ顔しないでよ。
 ……まぁ、確かにその気持ちには共感は出来るのだが。

 何故ならば、そこは“恐怖のゲイバー”、「ポイズン・キッス」への入り口だったからだ。

171206