澄みきった夜空には、無数の星々が瞬いていた。まるで、浮かれたクリスマスのイルミネーションみたいに。きらきら、きらきらと。
 ―― 今日は絶好の暗殺日和ね。

 あたしの家系は、代々暗殺稼業を営んでいる。実に、暗殺業の2割をシェアしている大手なのだ。お客様のニーズに出来る限り沿うことが我が家の経営方針である。利用者からは「手口が巧妙で鮮やか」「依頼を入れてから3時間後には暗殺が完了していて、その対応の早さに驚いています。他に殺したい人間が出来たらまた利用させて頂きます」「夜に安心して眠れるようになった」「抜け毛が減りました」といった歓喜の声が聞かれており、お客様満足度もかなりの高得点を叩き出している。

 ―― そして、かの有名なゾルディック家は我が一族の商売敵であった。

 あたしは幼い頃から「憎きゾルディック家の人間には気を許すな。仕事で顔を合わせることがあったら絶対に出し抜いてやれ。むしろ、いてまえ! 事故に見せかけて殺しちゃれ!」と入念な刷り込みを受けて育ってきた。
 商売敵ゆえ、仕事の最中にゾルディック家の者と顔をつき合わせる機会は決して少なくはなかった。その中でも、特にあたしは年齢の近いイルミと遭遇する頻度が圧倒的に多かった。
 厳しい両親の“教育”の甲斐もあり、あたしは見事に“反骨精神”を育むことに成功したのだ。

 ◇

「きゃー! イルミ、久しぶりー! 元気ー? あたしはイルミに会えたから今この瞬間からめちゃくちゃ元気になったよ!」
「うわ、最悪……。」
「イルミも仕事で来たんでしょ? ターゲットはもしかしなくても例の“アイツ”?」
「あー、うるさいうるさい。」

 本日の仕事は、とある代議士の暗殺だ。あたしは情報書をきちんと読まない主義の人間なのでよくは知らないけど、聞くところによると清廉潔白を装って裏では数々の汚職を繰り広げている極悪人なんだそうだ。(買収・売春・収賄・横領・殺人etc……を行っている札付きのワルなんだってさ。)
 そんな悪逆非道な人物なのだから、陰で様々な人間から恨みを買っていたとしても何ら不思議ではない。どうやら別の依頼主と暗殺のターゲットが被ったらしい。(みんなで共闘すればこうして無駄なマネーのやり繰りしなくても済むのにね。「急募! 〇〇を殺したい人!」ってお触れでも出してさ。ま、こっちはそれなりに儲かるから別に良いんだけど。)
 イルミが出現したということは、報酬を満額で貰えなくなる可能性が高くなったということだ。けれど、あたしにとったら願ったり叶ったりの事態だった。ゾルディック家を目の敵にしている両親が耳にしたらきっと怒り狂うだろうけど、あれこれ策を弄さなくたってこうしてイルミと会えたんだもの!

「イルミ、照れ隠しにあたしのこと着信拒否してるでしょう? 連絡したくても出来ないから、そろそろ伝書鳩でも飛ばそうかと思っていたところだったのよ。」
「は? どうやったらそういう短絡的思考に辿り着くわけ。っていうか本気で迷惑だし目障りだから、最低でもオレの半径10メートル以内には近付かないでくれる?」
「え〜、今日は巻尺(メジャー)持ってこなかったから正確な距離測れないよー。よってその提案は却下ね!」
「…………。」

 イルミはあたしに対し難色を示したが、対するあたしの頬は先ほどから緩みっぱなしだった。
 ―― だってあたし、イルミのことがだーいすきなんだもの!
 そう、脳裏に蘇ってきたのは、あたしがイルミと初めて出くわしたときの話だ。初対面で得体の知れないあたしを訝しんだらしいイルミは、言葉を交わす暇もなくあたしの頭に針を突き刺してきた。その時、“びりり” ―― と脳天から足先にかけて激しい電流が走った。

「なにこれ、針ツボマッサージ? すごーい! 長年悩まされてた肩凝りが治った……! 本当にありがとう! あなたのお名前は何て言うの?」
「……え、なにお前。気持ち悪いんだけど。」

 これは後から知ったことだが、イルミは操作系の能力者なのだそうだ。針を用いて人間を傀儡のように操る能力を有している。(と思われる。)もっとも、あたしには針ツボマッサージの効果しかなかったけど。
 親の敷いたレールに従って生きるのが嫌で嫌で仕方なかったあたしは、知らずの内にあらゆる“操作系能力を無効化する”能力を身につけていたのだ。この時ばかりは両親に死ぬほど感謝した。おかげでイルミに操作されなくて済んだし、人生で初めて一目惚れってやつを味わうことが出来たんだもの。(一目惚れって相手を見た瞬間に“びりり”って電流が走るものなんでしょう? だったら、あの時の感覚は一目惚れで間違いないわよね?)


 彗星のごとく快足を飛ばすイルミに付いて行くのは中々骨が折れる。けれど、このチャンスを逃したら次にいつ好機が到来するか分からないから、今のうちに話したいことを存分に話しておかなくっちゃ!

「それにしても、こうやってターゲットが被るなんて嬉しいなー。それぞれの依頼人に大感謝だね! それとも、始めからこういう運命だったのかしら。あたしとイルミって結ばれるべくして生まれて来たんだと思うの。ねぇ、止めを刺すときは新郎新婦のケーキ入刀みたいに、二人で一緒に殺らない?」
「無理。想像するだけで気色悪い。」
「えー、結婚式の予行演習みたいで楽しいでしょ? あたしたちって相性抜群だし、今日こうして会えたのも、“もう結婚しなさい”っていう神様からの思し召しに違いないと思うのよね。」
「どこが相性抜群? 最悪の間違いでしょ。」
「そんな釣れないこと言わずにさあ、一緒にハッピーな未来を歩んでいこうよ!」
「今すぐにでも戸愚呂が死んでくれたら、オレは間違いなく幸せになれるんだけど。」
「えっ、じゃあイルミがあたしのこと看取ってくれるの? それってステキ!
 今すぐにでも入籍して戸愚呂=ゾルディックになる準備してこなくっちゃ!」
「……戸愚呂って本当に脳味噌腐ってるんじゃない?」

 ―― かくして、対称的な二人の暗殺者は暗闇へと消えていったのだった。

Lovin' you!
(こそこそ企画より:イルミの事が大好きな夢主に対して塩対応すぎるイルミの話)
180820