ルプスの復讐
「現状ウチでは掃除婦の募集はしておりません。 お引き取り下さい。」淡々とそう告げると、目の前の暗い顔をした女性はますます顔色を曇らせた。手にしている履歴書は哀れにもぐしゃぐしゃに丸まっている。
ただ、その姿を見て特に気の毒とは思わない。所詮不景気な世の中なのだ。他人へ情けをかけたところで直接自分の元へ還元されるとは限らない。それどころか、小汚い裏切り行為は当たり前だ。この世に無償の愛なんてうそぶいたものは存在しない。あたしは、そんな馬鹿をみる愚蒙な女にはなりたくなかった。
“女性”は哀愁に満ちた背中を丸めて帰っていった。
「相変わらず冷てえなァ、幻海は。」
そのやり取りを見ていたらしい同僚の一人が、冷やかすようにあたしの肩に腕を回してきた。非常に不愉快な感触だ。
“この能無しのスカタン野郎が! 気安く触ってくるんじゃねェ! あたしが幾度テメーのヘマの尻拭いをしてやったと思ってんだ!”と心中でいくら罵ろうが、コイツとあたしは実質同列に過ぎないのだ。この姿を見て疑問を抱く者は誰もいないだろう。そんな実情に、いよいよ積み重なってきた我慢は限界を迎えた。
あたしは男の腐敗しきった腕を振り払うと、ボスの部屋へと直行した。
……あぁ、胸糞悪い。絶対的ニコチン不足だ。
ヂッ、とライターが不穏な音を立てる。紫煙を燻らせると、まだあどけない様相を保った若頭は眉をひそめた。
革張りの椅子に腰掛け、事務的に、かつ正確に仕事をこなしてはいるものの、彼のことを“ボス”と呼ぶにはその容貌はあまりに片生過ぎた。「クラピカ“さん”。 あたし、今の自分の杜撰な扱われ方にどうしても納得がいかないの。」と、図らずしも“さん”に力が篭ってしまうのは致し方のないことだろう。
「杜撰、とは?」
「単刀直入に申し上げますと、あたしの仕事振りに見合った給料に上げて頂きたいのよ。 組織の壊滅危機を回避すべくひた向きに努力してきたあたしに、見返りとして誠意を見せるべきではなくて?」
「……幻海の要求は理解したが、まず一言言わせてもらおう。 私の部屋での喫煙は勘弁してもらいたい。 煙草の煙は冷静な思考を鈍らせるからな。」
「それは残念、あたしは吸ってると頭が冴え渡るものですから。」
「私は不快だ、と言っている。」
お返しとばかりに、今度はクラピカが“不快”を強調させた。曲がりなりにも上司命令なので、仕方なしに吸いかけの煙草を彼のコーヒーの中に落とした。途端に、ジュッ、と命を散らせた燃えカスが表面に浮かび上がる。
その様子を見て彼は更に眉を寄せたが、それ以上の文句を垂れることはしなかった。
「それで、検討して頂けるんですか?」
苛々して返事を催促すると、クラピカは一息ついてあたしを見据えた。その瞳の中には、あたしと同じ感情が宿っている。
「まず昇給についての返事だが、答えは“ノー”だ。 幻海も知っての通り、昇給出来るほどの資金が無いのがウチの現状だ。 今まで占いに頼りきりだった経営基盤を立て直すところから始めなければならない。 話はそこからだ。」
「じゃあ、現状維持で我慢しろって言うわけ?」
「そういうわけではない。 君の能力は私としても評価している。 頭の回転は誰より速いし、冷静に物事を判断し迅速に処理することも出来る。 今後基盤を築いていくのに幻海の力は必要不可欠だろう。
資金繰りが上手くいったら昇給することを約束する。 」
フン、何が“約束する”だよ。一丁前なことを偉そうに言いやがって。そもそも、あたしが冷静だって? 案外そうでもないかもよ。
何故なら、あたしの通称は“鉄の女”。重大な任務に遅刻してきた新人の指をチャカで弾き飛ばしたことだって、気に入らない取引相手の顔貌を根底から変えてやったことだってあるのだ。そのグリーンのネクタイを容赦なく引き千切って、可愛らしい顔に風穴を空けることぐらいわけはない。
だが、あたしが“鉄の女”と揶揄される所以をここでご覧に入れてみせよう。
「ええ、正当な評価をして頂けて光栄です。 今後も組のため日々邁進してまいりますので、どうぞよろしく。」
顔色ひとつ変えず、あたしはクラピカに向けお辞儀をした。
“このいけ好かないクソガキが。絶対にいつか泣かせてやるから覚えてろよ。”と心の底では中指を突き立てることも忘れずに。
◇ プロット:だいさん
・ヒロインはノストラードで働いている(女中、護衛、シェフetc)
・若頭に出世したばかりのクラピカに賃上げ要求する
資金不足を理由に、現状維持を告げるパターンでも、仕事ぶりを評価して賃上げするパターンでも、クビにしてしまうパターンでもなんでもokです。
クラピカ、ヒロイン双方ともに、仕事だからきちんとしたやり取りを行うも、お互い気が合わないと思っていると尚嬉しいです…!
→色々迷った末に、ヒロインは護衛?(しかも過激派)の人になりました。私の特性よろしくちょっと騒がしいアホな子にもしようかとも思いましたが、クラピカとの口論?メインの話となるので、クラピカと渡り合えるくらいの頭の良さそう(あくまで“良さそう”)な女性イメージで書きました。クラピカよりいくつか年上で、仕事が出来てクラピカにも一目置かれてる……的な?感じ?(曖昧すぎる)
クラピカが分煙派かは分かりませんが、クラピカがちょっとムカついてる感じを出したかったのでそういうセリフも入れてしまいました。違ったらごめんなさい。
この二人がぶつかり合いつつ愛?を育んでいく姿が見てみたい。(願望)
171107