思ったより再会は早かった。漆黒の闇の中でパチパチと音を立てる炎を見る。心が安らぐようで、落ち着かない。その中に小枝をいくつか放り込むと、火が大きく揺らいだ。
レースで常に圏外な私が彼に会えたのは、ジョニィ・ジョースターやジャイロ・ツェペリの手引きがあったためだと言っても過言ではないだろう。彼らは「正気か?」と目を丸くさせたが、冗談でこんな過酷なレースに参加するほど私だって馬鹿じゃあない。おかげで、二度と逢瀬も叶わないと思っていた彼に会えた。それだけで、私は満足なのだ。
「こんなレースに……よくあの親父さんが許したものだな」
「ふふ、父はもうもぬけの殻よ。事業にしくじったの。原因はよく分からないみたいだけど、外部からの何らかの圧力だとも言われている。ともかく、お父様は無力になったわ」
「……そうか」
聞いて、ディエゴはそれ以上の追及はしなかった。紅い光を受けて、彼の瞳は怪しげに光っている。
「それなら、既に“君”の価値もなくなったというわけだ。――“良家のお嬢さん”。君に、それ以上見い出すべき何かがあったか?」
「そうね、あたしに残された物は何もないわ。地面にはいつくばって泥水でも舐めるしかない。虐げられ、みじめに生きていく……」
いつだって、“良家のお嬢様”は優位の立場にいた。右を向けといえば右を、左をといえば左を。それらを決定づける権限を持っていた。だが、その仮面を失った私は何者であれば良いのだろう。もう誰も、私の言葉になぞ耳を貸さない。意味があるとすら考えもしない。
養豚場の、家畜のような生命 ――。眩いスポットライトから一転して、侮蔑の視線を浴びるようになった。
ディエゴは私の顎を掴むと、グイっと上を向かせた。かつての彼であれば、そのように私に触れることすら許されなかっただろう。だが、もはや何者でもない女である私と、秩序のない荒野。その行為を止める者など、存在するはずもない。
「知ってたか?」
「……え?」
「君を見る男共の目だ。餓えた、淫欲な視線」
君は、誰よりも美しかった。ふわふわと風を受ける髪。陽に照らされた透きとおるような肌。せわしなく動き、淡く色付いた唇に甘ったるい声。すらりと伸びた手足。華奢な腰回りに、いくらでも柔らかさを想像させる双璧。
ディエゴが力をかけると、背中にごつごつとした岩肌が当たる。
「君ほど、男の淫夢に現れた女はいないと思うぜ」
「そんなこと……」
「言っておくが、これは事実だ。君の過ぎ去った場は一体どうなっていたと思う?いつも君の話題で持ちきりだ。下衆で、劣悪な、欲情に満ち溢れていた。憐れにも、君はそんな対象になっていたんだ」
彼の牙が、私の肌の上を滑る。途端に苦しくなって、目を閉じた。
「オレは許せなかった。……君をどうにもできない自分自身がな。ソイツらをいくらぶちのめそうと、君はオレの手に届かないんだ」
プツリ、プツリと裂ける音がする。隙間から風が入り込んできて、非常に心もとない。羨望したディエゴの手によって、鮮やかな熱に浮かされる。
「敢えて聞くが、オレ以外の男に肌を許していないだろうな?」
「そんなこと、できるわけないでしょう」
私はディエゴの腰を撫でる。
早く、早く。獣欲で私を支配してしまえばいい。私をねだって狂喜に陥ればいい。私は、そんな貴方が見たくて仕方がないのよ。
狂気に惑う
141015