ザシュッ、と肉の切り裂ける鋭い音がした。目の前に散る鮮血。
 数コンマ遅れた後、それが自分のモノだと気付いた瞬間身体に激痛が走った。斬られた勢いで、あたしの身体は激しく地面に叩きつけられる。その強い衝撃波に出したくもない呻き声が漏れた。

 痛い、痛い痛い痛い痛い!太い注射器を何万本も突き刺されたような、そんな耐え難い痛さに、空気が喉の奥に突っかかってまともに呼吸も出来ない。
 迂闊だったわ、本当に。敵のスタンド能力をよく考えもせずに特攻なんてするもんじゃあないわね。痛い目見てようやく思い知るなんて、馬鹿だったわ、あたし。
 あたしにこんな傷を付けやがったクソ野郎は、さぞ愉快なんでしょうね。思惑通りになって一人で高笑いでもしてるんだわ。本当に、ほんっとうに腹が立つわ。こんな事になるなら、皆を待っておけば良かった。チンピラなんて馬鹿やってるんだから、勿論こんな怪我をする事だって初めてじゃあないわ。でも、いつだって誰かが傍にいてくれた。だから平気だったのよ、あたし。助かってきたの、運良く。
 けれど今回ばかりはその運も尽きたようね。死ぬんだわ、あたし。それもあと数分持つかどうか。ブチャラティ達は、せめて悼んでくれるかしら。それとも、馬鹿な女だって笑う?……どうも、後者のような気がしてならないわ。
 ブチャラティにいつか聞かれたっけ。“この世界に入って後悔は無いか”って。そりゃあ、後悔した事なんて数え切れないくらいあったわよ。幸せか、って聞かれたら素直に「Sì」とは答えられないかも。でも、あたしみたいな馬鹿な女を傍に置いて使ってくれるんだもん。ブチャラティには、感謝してもしきれないわ。
 それと……本当に、イヤになっちゃう。どうして最期にアイツを思い出さなきゃならないのよ。反吐が出るわ、アイツ。ムカつくのよ、あの鼻持ちならない新入り。アイツの不可解な金髪頭が脳裏にこびりついて離れない。ムカつく……ジョルノ・ジョバァーナ。
 あたし、初めて会った時からアイツが嫌いだった。いかにも“マンモーニ”って言葉が似合いそうなクソガキ。あんなヤツがチームに入ったって、どうせ直ぐくだばるに決まってるわ。そんなヤツを今まで嫌ってほど見てきた。もっとも、今のあたしが言えたことではないのだけれども。けど、ジョルノの鼻面だけは思いっきり引っ掻き回してやりたいわね。それで「許してくれ」って泣いて乞うのなら許してやらなくもないわ。
 ……嗚呼、ダメ。もう駄目だわ。こんな馬鹿な事考える余裕も、時間も、あたしにはもう残されてない。身体が冷え込んでくるのが分かる。痛みは既にない。手先が痺れて動かない。いよいよ、覚悟を決める時が来たってわけなのね。もう少し遅くたって構わないのに。こんな時くらい、レディを待たせてみなさいよ。

 彼女がそう思った時、何かの音が聞こえた。音、というよりも誰かの声だろうか。何か言っているのかもしれないが、あいにく聴力は正しく機能していない。
 天使か、悪魔か。はたまた死神か。まァ、今更何が来ようと関係ない。あたし、死んでるんだから。
 力が抜けて、世界が歪んでいく。もう形も留められないくらい。あたし、可笑しくなっちゃったのね。チラリと黄金の光が視界に映ったような気がするけど、もうどォだっていいわ。



「ーーーー!」

 名前を呼ばれた。誰の名でもない、あたしの名前。ガタガタと微かに振動がする。瞼を開くと、まず目に飛び込んできたのは恐ろしく低い天井だった。……ルーフ?あたし、車の中にいるの?

「あ、目を覚ましましたよ」
「お?へェ〜さすがだな。こういう悪運だけは強いんだよな〜、コイツ」

 あたしの顔を見下ろしてくるのは、ミスタと……ジョルノ?あたし、やっぱり助かっちゃったってわけ?

「……うっ、ぁ痛……」
「あ!まだ動いちゃダメですよ。傷自体は治したし、失った血も補いましたが、肝心の傷口は塞がってないんですから」
「……あたし…」

 起き上がろうとしたあたしを、ジョルノが諌めた。しかし、まだ腹部に激痛が走って思うように動けない。そういえば、深い裂傷があったはずだが……
 車の運転をしていたブチャラティが、口を挟んだ。

「ジョルノに感謝するんだな。敵に襲われたお前を助けて、傷の治癒までしてくれた。ジョルノがいなかったら、お前は今頃再起不能になっていたはずだ」
「え、……ジョルノ…が?」
「あぁ、いえ…僕は当然のことをしたまでです」

 ジョルノは半ば狼狽したように言った。コイツ、いつもは妙に自信満々のくせに、あたしの前だと何故かこんな感じだ。オドオドと、口ごもる。まぁ、あたしの普段のつっけんどんな態度からこうなってしまうのも無理はないだろう。(と、当のあたしが言うのもどうかと思うのだが。)

「それに、その……非常に言いにくいんですが、言わないわけにもいかないし…。治療の時に、あなたの服を体の部品として使わせて貰ったので…」
「おいおい、はっきり言えよなぁ〜。素っ裸にひん剥いちまったってよォ〜」
「ちょ、ちょっとミスタ!そういう誤解を招くような言い方は…」
「…え?……あぁッ!」

 あたし、“服を着ていないわ!”。下着すら、何ひとつ。辛うじて薄いシャツのような物で身体を覆われてはいるが、その下はただの素肌だった。あたし、こんな姿でずっと寝ていたっていうの?ジョルノが近くにいるのに?

「…服は、ちゃんと弁償します。でも、これだけは言わせて下さい。神に誓って、あなたに下品な真似だけはしていませんから」
「“まだ”な!」
「〜ミスタッ!」
「ウケケ。おおっと、暴力に訴えるのは止めろよなァ、ジョルノ!」
「それなら、その余計な口を慎んで下さい!」
「うぅ、……もぅ最悪…」

 最悪よ、最悪。最悪最悪。理解不能。あたし、消え入りたいくらい恥ずかしいわ。これなら、大人しく死んでたほうがマシだったくらいよ。命あっての物種なんて言うけど、そんなの時と場合によるものでしょう?あたしに勝手に価値観を押し付けるのは止めてよね。
 ……でも、まぁ、助かっちゃったのは事実みたいだし、どうしても避けられない、仕方のないことなのよね。

「……ジョルノ、あの…ありがとう」
「あ、……はい!」

 ジョルノの顔をまともに見れないのも、ドキドキ高鳴る心臓も、全部この羞恥のせいなんだから。本当よ!嘘じゃあないのよ!


少しはあたしの言い分くらい聞いて!
140322

ヒロインはジョルノの二つ上の17歳。父がギャングで、彼女が13歳のときに目の前で母と共に殺害された。そのときに彼女も危うく敵の毒牙にかかりそうになったが、ブチャラティに助けられ難を逃れる。それ以来ギャングとしてブチャラティのチームに入る。彼には恋心にも似た憧れを抱いているが、その想いは打ち明けられずにいる。
ジョルノが仲間になり、ブチャラティが幹部に昇進。その後の戦いの中で致命傷を負うが、ジョルノに命を助けられる。ジョルノを当初毛嫌いしていたが、助けられてからは改心して、段々と恋愛関係に発展していく。普段はレオパード柄のコート、黒のタイトスカート、ピンヒールなどを好んで着用している。

っていう妄想を3年ぐらい前からしてます。