今まで、何度体を重ねてきただろうか。そんな数などに全くの意味は無い、と思いつつも私はそれを指折り数えてしまう。私の脳裏には、今までしてきた行為一つ一つが思い起こされていた。
 彼のことはよく知らない。名前と、職業がギャングであるということ以外。趣味とか家とかいった無駄なおしゃべりは一切しなかった。だが、そんなミステリアスなところにますます惹かれていったのも事実だ。
 彼とは、とある仕事で知り合った。互いの利益を追求した低俗な仕事だったが、裏の世界に身を置く私たちには日常茶飯事のことだ。誘ったのは私から。スーツを捲る彼の仕草がえらくセクシーで、この人は一体どんなSEXをするのだろうと興味を持った。半分は冗談のつもりだったが、半分は本気だっただろう。生真面目そうな彼は、意外にも私の安アパートのドアを叩いた。

「景気はどう?」
「…あぁ、変わらない」

 情事後の気だるげな雰囲気の中、私は煙草に火をつけた。私は、煙草だけはいつもマッチで火をつける。昔の男がそうやっているのを見て、これが“大人の世界”なのかと勝手に憧れを抱いて真似しはじめたのがきっかけだ。今ではすっかりそれが習慣になっている。
 彼は何を思っているのかよく分からない表情で暗闇を眺めていた。そのぼんやりとした面持ちを横目で覗きながら、私は彼の胸に擦り寄ってみる。彼の刻むリズムはいつも一定で、変わり映えがない。それこそ、機械のように。

「私には、あなたが何を思ってどう行動しているのか全く見当もつかないわ」

 そう言って腹部に指を這わせるが、彼は何の反応も示さない。もしもこの体温がなかったら、生死すら判別できなかったかもしれない。せめて人間らしく、身じろぎくらいしてくれたって良いじゃない。急に悲しく、悔しくなって、そんなつもりじゃあなかったのにずっと引っかかっていた思いが口からこぼれた。

「……ねぇ、好きなひとがいるんでしょう」

 尋ねると彼は肯定も否定もしなかったが、そっと目を伏せた。十分だ。

 彼の心を射止めたのはどんな子なのかしら。可愛い?綺麗?色っぽくて、スタイルが良い?素晴らしい歌声で、素晴らしく優雅なダンスをして。明るい未来を高らかに語って……。そんな素敵な魅力を携えて、あなたを虜にしているのね。

「そうだな……“好き”とか“嫌い”とか、そういう対象として考えたことはなかったが、」
 彼は言葉を選ぶ。
「オレにとっての価値とも言えるかもしれない」

 彼は再びぼんやりとした暗闇に身を置いた。体を重ね合わせている私よりも、そのひととの距離が近いとは一体どういうことなのだろう。恐らく、彼はそのひとに手を出していない。いや、絶対にだ。体を合わせたからこそ分かる、私の方が密に関わっている。だが、そんな私なんかよりも、彼は“そのひと”の心に密接している。今、まさに。

「それなら、こんなところで油を売っていても良いの?」
 最後の意地だ。
「私を選んだのは何故?」

 本来ならここで、「酷い男ね!」と爪を立てても差し支えないだろう。私を抱いている最中、全く別の女のことを考えている男だ。そんな、最低でむごいことをする男なのだ。

「君はオレに似ているんだ。それと、」

 君は野心がないのが良いんだ。ブチャラティはそう付け加える。やっぱり。私はますます悲しくなった。

 あるわよ、野心くらい。だって、私は機械じゃあないんだから。

機械仕掛けの娼婦
141021 悲哀を催す。ブチャラティは女心に疎そう