※下品
その夜わたしはベロベロに酔っ払っていて、正常な判断をすることが出来なかったのだ。と、まずは言い訳させて頂きたい。(だって、私は純情だけが取り柄なんだもの!)
もうそこが西か、東かも分からず。ふわふわとした心地いい気持ちでなだれ込んだその場所には随分と上等なベッドがあって。自然に寝そべったわたしはそっと目を閉じた。その後の記憶はない。
「んん……」
やはり、目が覚めたら見慣れぬ場所だった。夢であってくれたらと少し期待した自分がいたが、人生そう上手くはいかない。ついでにいうと頭が少しガンガンした。完全に二日酔いだ。
隣には見慣れたような、そうでないような男性が眠っていた。いや、一応知っている。知ってはいるのだ。え〜っと……名前は確か岸辺、露伴……さん。年齢は同い年で(全くそういった印象は受けなかった。何故なら彼はとてもえばったような人だったのだ)……え〜〜〜、それから……職業はマンガ家?だったっけ。それしか知らない。
そして、わたしは心底安堵した。だって!上から下まできちんと服を着ているのだ!どうやら恐れていた間違いは起こらなかったみたいだ。
とりあえず、家に帰ろう。今何時だろう。ここは何処らへんなんだろう。歩いて帰れる距離なのだろうか。最悪タクシーを使っても……。そんな思案をしながら起き上がると、床にぽつんと落ちている物に気が付いた。完全に温度を失ってはいたが、それはパンツだった。紛れもなく、わたしのパンツだ。確かめてみるとスカートの下はノーパンだった。死にたい。
「……起きたのか」
振動のためか、男性も目が覚めたようだ。寝ぼけ眼でこちらを見ていた。
「はい、え〜っと……」
「とりあえず、ヒニンはしたから安心しなよ」
「あ、そうでしたか。あ、りがとうございました……?」
たちまち頭の中が真っ白になった。えっと、避妊ばんざーい!ばんざーい!って喜べば、いいのでしょうか。いや、違う?
「えっと、ちょっとお聞きしたいんですが」
「……なんだよ」
寝足りないのか、どうにも彼は不機嫌そうだ。そんな顔しなくたって、いいでしょ。いやいやいや、人間はつくづく三大欲求には逆らえない生き物なのだ、と好意的な見方をするべきだ。
「昨日、一緒にバーで飲みましたよね」
「……」
「わたし、何というか、すごく酔ってて……」
「幸せになりたーい!」
「えっ?」
「って号泣してたよ、君」
わーお。お酒の力って怖〜い。ははは。って笑えな〜い。
「それから、何故こちらに……」
「何でって君、まともに住所も言えないくらい酔ってたし」
「……はい」
「ぼくだって仕方なく君を連れてくるしかなかったんだ」
「……はい、恐れ入ります」
まあ、分かるんです。それは分かるんです。本当にご迷惑おかけしました。でも、でも、でも……でもね!しても良いこと、悪いことってあるじゃない!わたしはそれを涙ながらに訴えたい!ワケなのですよ。
「それにね、君なんてタイプでも何でもないけど、年頃の女の子がベッドで寝ていたらどうだ?健全な男なら襲うしかないだろう?」
「え!?そ、うなのかな……!?」
「君ほどではないけどぼくもそれなりに酔ってたし、人並みに性欲だってある」
「あ、う……はい」
「あんな状況で襲うなって言われたってムリだぜ。それで襲わない男がいたらゲイか不能のどちらかだろ」
「え……ど、どうかな」
「それに君だって結構ノリノリだったじゃあないか。昨日だって三回もぼくの」
「うあああああああ!はい!もうこれ以上わたしの黒歴史を増やさないで!口閉じて!こんな、酔った勢いとはいえ、名前ぐらいしか知らないような人と……もう、死にたいぐらいの自己嫌悪におそわれてるのに!追い打ちかけないでよ!わたしの名前も知らないくせにさぁ!パンツだけ脱がせるなんて頭おかしいんじゃあないの!バカ!」
もう、ハチャメチャな大爆発だった。いくらなんでも失礼にもほどがあったと思う。親切に介抱してもらったというのに(ついでに要らない過ちもついてきたが)、恩を仇で返すようなものだ。どう考えてもわたしに落ち度がある。こんな馬鹿な女に同情してくれ、といっても無理な話だ。でも、本当に我慢がきかなかったのだ。どうしても自分を正当化したかった。
「知ってるよ」
それは驚くほど淡白な声だった。
「……は?」
「君は“名前も知らないくせに”って言ったけど、ぼくは知ってる」
わたしと違って、彼は落ち着いた態度を崩さない。
「ナマエ、だろ」
「……う、ん」
「ついでに言うと、市内の大学に通う女子大生。先日彼氏だと思っていた男にひどい振られ方をされたばかりで自暴自棄になってた。現実を見ようと思ってはいるが、いつかマンガのようなロマンチックな出会いがあると信じてる。……そうだろ?」
「それ、それ、……昨日全部喋ってたの?」
この人はきっと空気を読めないタイプだろう。だって、羞恥で死にかけのわたしにトドメを刺そうと容赦なく言葉を浴びせかかるんだもの!
「さあ、どうだったかな」
ニヤリ、と露伴は初めて笑顔を見せた。でもわたしはこんな風に笑う人は好きじゃあない。
「君の泣き方が大層面白かったんで、マンガのネタになると思ったんだ」
「うう、そんなこと考えてたなんてヒドイ!」
「それから、ついでに襲ったのは君がとても魅力的に見えたからだ」
また、露伴は笑う。
あまりの不意打ちにドキッ!とした。いや、違う違う!そんなのがフォローになるわけないでしょう。わたしは安い女じゃあないんですから!ドキドキするのは生きるために心臓が動いてるだけの仕方のないことなんだから!
だから、これ以上好きにさせないで!
ロマンティックが止まらない
150809 露伴先生はズケズケ言ってくれるところが良いんです