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「だって、お前モテないだろ。」
非情にも、幸村の両眼は一直線にあたしを貫いていた。……まるで、柳生のレーザービームさながらに。
その一言のせいで、あたしは食べかけていたサンドイッチを落としそうになったし、思わず「は?」という声を漏らしそうになったが、女の子として生を受けた時点で下品な振る舞いをするのは良くないと教え込まれていたため何とか堪えようとした。が、サンドイッチの中に挟まっていたレタスとトマトはずるりと地面に落下してしまったし、「は?」の次に紡ごうとしていた「あんた、喧嘩でも売ってんの?」というセリフが喉元からはっきりと産出されてしまった。詰まるところ、女子として最低の大失態を演じてしまったわけだ。
幸村はあたしの返事を聞いて取ってつけたような微笑みを浮かべたが、その目元は一ミリも笑っていなかった。
「お前なんかにわざわざ喧嘩を売るわけないだろう? ありのままの事実を教えてやってるだけなんだから。」
「いや、やめて! 聞きたくない! そういうの聞きたくない! いつまでも夢見る少女でいたいのに、ラーの鏡で現実見せつけてくるような残酷な仕打ちはやめてよ!」
空想上だけでも綺麗なお姫様でいたって良いじゃない! 偉い王様になって、好き勝手に町の住民を操ったって良いじゃない! ちょっと、そういうのって憧れるじゃない! ボストロールだって実は辛いんだよ! 正視に堪えない醜い自分の顔は見たくねえんだよ! 夜な夜な涙で枕を濡らしたりしてんだよ! 真実を映すラーの鏡、恐るべし! あんな惨たらしい物は毒の沼へと沈めてしまえ!
「米山、うるさい。少し黙れ。」
「……ふぁい。」
鶴の一声ならぬ、幸村の一撃必殺によってあたしの言動は塞がれてしまった。
……この暴君め。
―― 事の顛末は、単純な羨望であった。
きゃぴきゃぴと浮かれて、わけもなく楽しそうに団欒している女子の群衆を眺めていると、あたしも青春めいたことがしてみたい、という欲望に駆られたのだ。彼氏とか、彼氏とか、彼氏とかを作って、惚気話に花を咲かせてみたいだけだ。そんな風に、ごく一般的な少女が当たり前のように抱く憧れを夢見たって良いじゃないか。
素敵なボーイフレンドを作って、長年しこたま蓄えてきた想いを二度と掘り返されないように毒の沼の奥底まで深く、深く沈めてしまおう。金庫付きの重箱に納めて、何億光年も彼方へと飛ばしてしまおう。そうして、すっぱりと吹っ切ろう。そうなのだ。あたしの明日は、希望に満ち溢れているはずであった。
……なのだが、あたしの希望を無惨にもぶち壊そうとする不逞の輩がいた。幸村精市である。
迂闊にも幸村の前で「彼氏作りたい……」などと嘆いてしまったあたしもあたしなのだが、優しさというオブラートをどこかに置き忘れてきてしまった幸村も幸村だ。「お前モテないだろ。」と真っ向から当人に言うとか、ただの言葉の暴力でしかないでしょう。あたしのHPをゴリゴリ削りたいだけでしょう。なんとかこの窮地を脱したいところだけど、どうやってあの幸村の鋭利な攻撃をかわすか?
答え@ 絶世の美女であるヨネちゃんは突如反撃のアイデアがひらめく。
答えA 仲間がきて助けてくれる。
答えB かわせない。現実は非情である。
……やはり。 答えは……@しかない、か!
「た……たとえ万人にモテなくたって、校内をくまなく探せばあたしのことを好きになってくれる人だってきっといるはずよ! そうでしょう、柳!?」
と、<答え@>しかないと半ば諦めつつも、実はAにも期待してしまっているあたしは柳に助力を求めた。柳よ、今こそ瀕死になりかけている仲間を救うのだ! お前が立海の柱となれ!
しかし、柳は至極残念そうに首を横に振った。
「いや、それは無謀な相談だな。その証拠に、陰で米山に付けられている二つ名を教えてやろうか?
“凶暴メスゴリラ”、“性格ブス”、“人の皮を被ったケダモノ”、“野獣”、“ヤンキー母校に帰れ”……等々。良い評判は一切聞かないぞ。」
「な、何よ、その悪口のオンパレードは……。」
「主に弦一郎に対する米山の振る舞いが悪評を生んでいるらしい。全ては身から出た錆。お前の自業自得なのだから仕方がないだろう。」
「な、な、な……。どうしてなの!? あたしの何が悪いっていうの!?」
あたしは慎ましく生活するよう心掛けているというのに!
頭部めがけて黒板消しを飛ばして後頭部をチョークの粉まみれにしたり、鳩尾に飛び膝蹴りを入れてノックアウトさせたり、お弁当箱の中身を綺麗にしてあげたり(その中身は絶品であった)、借りた教科書に多少の落書きをして怒られたりと、そんな横暴な真似はゲンイチロウにしかしていないのに……!
「だから、そういうところだろ。馬鹿女。」
呆れたような幸村の声に、あたしのガラスのハートは木っ端微塵に飛び散ったのであった。完敗記念日に、乾杯。
国破れて山河在り
190425
今回はドラクエネタ大活躍回でした:ラーの鏡、ボストロール