部屋を出て急ぎ足で執務室へと向かう。
喉の奥から熱いものを感じ眩暈で倒れそうだった。
「―name」
曲がり角で出くわしたイグニスが驚いた表情を浮かべ、両肩を掴んだ。
「どうした、体調でも悪いのか?顔色が良くない」
いつも自分を優しく見つめる瞳を見て、心が段々と平静を取り戻していく。
勤務中、王都城内であることは重々承知だったが少しだけイグニスの胸へと頭を寄せた。
「ちょっと、日差しが強くて...陛下へ報告書を提出してきたの」
「そうか..少し休んではどうだ?」
軽く背中を擦ったイグニスはnameの左手首に付けられたブルーのリボンのブレスに気づき触れた。
「陛下が、婚約の報告はまだかって」
「あぁ、気が早いな。グラディオかプロンプトに聞いたんだろうな」
そう言って困ったように軽く笑った。
nameは左手首に触れているイグニスの手を握った。
それに応える様にイグニスは背中をぽんぽんと軽く叩く。
「明日にでも、2人で報告に行くとしよう。サムシングブルーを既に身に着けさせるとは...急かすな陛下は」
―イグニスは、私とノクトの間に起きたことを知っている。
『この事は誰にも知られることはないから心配しなくていい。年頃の男女が..そうなる事は仕方がなかったんだ。時間が経てば忘れる。思い出して辛くなったら俺を呼べばいい―』
あの時からずっとイグニスは側に居てくれている。
共に、これからも一緒に歩もうと。
心の奥底に閉じ込めて、何事もなかったように数週間後にはいつものように、いつもの4人と一緒に過ごした日々。
離れれば良かったのかもしれない、でもそれをさせない何かが自分を縛る。
―ノクトとnameの間に起きた事は知っている。
ノクトには長年の想い人が居るだろうと思っていたnameにとっては戸惑う事だったのかもしれない。
だが、それなりの年齢を迎えた二人が興味を持ちその行為に至る事は珍しい事ではない。
時間が経つにつれて薄れる記憶であっても、思い出したその時に罪悪感に苛まれ捕らわれる...nameはずっとそうなのだろう。
自分が側に居ることでそうなった時に少しでも和らげることが出来たらと思う。
だがそれは同時に、鳥籠の中に入れていることも分かっている。
ノクトは自分の手から大切に思う者たちが離れていくことに敏感だった。
それは幼い頃に母である王妃を亡くし、忙しくしているレギス陛下との距離を感じていたことが大きく影響しているのかもしれない。
周囲と壁を作っている、と聞いた時も敢えてそうすることで離れた時の寂しさを感じないようにしているのだと。
だが、本当に手放したくないものはずっと側に置く。
どんな形であっても―。
ノクトの側付として、望むことは可能な限り応えてやりたいと思う。
それが柔らかくnameを縛ることになったとしても。
『これは運命なのだ』と
その言葉の鎖が緩やかに、でも確実に逃さないようにnameへと絡みつく。
全てを知った上でこうする俺を、どうか許してほしい―。
君と運命の恋を