
消え入りそうに小さく拒絶の言葉と自分の名前を口にするその声に
何とも言葉にし難い快楽を感じるのは
幼い頃の愛情の欠如によるものなのかもしれない。
こうする以外の愛情の示し方が分からない――。
自分の下に組み敷かれ抵抗する力も奪われ、それでも小さく啜り泣き
顔を片手で隠し横に背きながら、もう片方の手で胸を押しどうにか逃れようとする。
その瞬間の相手の中には自分だけが在る。
“恐怖の相手”と思っていたとしても、相手の頭の中には自分だけが居るのだ。
そのことが自分自身を深く満たし、体中に熱を再び帯させていく。
人は、痛めつけられる恐怖よりも自我を失う恐怖の方が上回る。
味わった事のない感覚が全身を支配すればするほど、その恐怖の色は濃くなって行く。
自分自身でコントロールすることが出来ない、頭が真っ白になるほどの快楽によって自我を失うということは今までの自分ではなくなることを意味する。
そこへ行ってしまえば二度と引き戻すことが出来ないであろう事が分かるからこそ、必死で抗うのだ。
しっとりと俄かに汗ばんだ頬から首筋にかけて張り付いた髪を指で梳き、頬を撫でれば拒絶の言葉とは反対に躰は素直に反応する。
ルーファウスの脳裏に数日前のやり取りが浮かんだ。
『困ります、社長。受け取れません。』
『・・・好いている男でもいるのか』
『将来を共にしたい相手が居ます・・ですからこういったプレゼントは受け取れません。』
『そうか・・・このイカリソウの花言葉は知っているか?』
美しく包装された箱と共に小さくつけられた花―イカリソウ―
彼女は少し戸惑う表情を浮かべその質問には答えずに、『失礼します』と逃げ去るように部屋を後にした。
恐らく意味は知らないままだろう。
他の誰かに取られてしまうならいっそ自分の手で壊してしまえ。
恐怖であったとしても、相手の奥深くに自分が支配するように根付くことが出来るなら・・・。
ルーファウスは梳いていた髪を耳に掛けながら静かに囁いた。
「まだ、教えていなかったな・・・イカリソウの花言葉は、」
――君を離さない