好きになってはいけない人だったのかもしれない。



無口であまり感情を出さない彼の、いつもしているサングラスが外されて私を見つめるその瞳は
優しさと、喉から躰全体に広がるような熱っぽさを感じる。

片手で静かにネクタイを解きスーツのジャケットと同じ黒いシャツのボタンを一つずつゆっくりと外していくと徐々に彼の上半身が露になり、間接照明がぼんやりと照らした。

朧げな光によって照らされたその躰は、触れなくても力強さを十分に感じるほどに鍛え上げられ同時に彫刻のような美しさもあり、そんな見た目とは裏腹に彼が私に触れる手は驚くほどに優しいものだった。

急に恥ずかしさが込み上げ、思わず自分の口元を片手で覆い顔を横に逸らすと
彼はゆっくりと私へと覆い被さり壊れ物を触るかのように口元の手を指を絡めながら枕の横へと押さえつけた。

空いているもう片方の手が私の頬へと添えられ愛おしむように撫でる。
親指が下唇をゆっくりとなぞり、その度に次にされる行為に期待してしまう。
恥ずかしくて彼の鎖骨あたりを見ていた視線を上へと向けると熱を帯びた視線と交わった。

それを合図に額に優しいキスを落とされ、頬、耳と徐々に下がり低い艶めかしい声が私の名前を呼んだ。

彼の体温が私を包み込み、熱が伝染してくる。

彼の首元からはウッディ―で落ち着いた中にシトラスがほんのりと感じるような香りがして、ゾクゾクと背中に感じたことのない興奮を走らせた。

眠らない街の全てを夜が飲みこもうとする時間
部屋の中は二人の吐息と少し汗ばむような空気に包まれ

私は彼からの熱を受け止めるだけで精一杯だった。

見た目からは想像がつき難い、彼の紳士的なリードは私の心と身体を満たしていく。

しっとりと吸い付くような彼の首に手を回し向かい合わせになると、切なさを帯びた声が私の名前を呼び耳から脳に響いた。
何度も下から込み上げてくる快楽に頭がぼうっとなり、力なく彼の肩に頭をもたれかけた。

長く甘い時間の中、何度か彼が私の名前と言葉を口にしたけれど

いつの間にか降り出していた雨音にかき消されてしまった。




いつの間にか眠ってしまっていたが、ネクタイを締める音とジャケットを羽織る音に薄らと意識を呼び起こされた。
彼が付けている装飾品の鎖が擦れ合う音が聞こえ、ドアの方へと向かった足音がこちらへと向き直りベッドの傍までくる音がした。

横を向いている私のこめかみに、静かにキスをして彼は聞こえるか聞こえないかの声で言葉をポツリと零した。

ベッドサイドのテーブルに何かが置かれた気配がした後、部屋のドアが静かに開閉する音が聞こえ足音が消えて行った。

目を開けると窓からはミッドガルを濡らす雨が降り続いているのが見えて、まだ熱の余韻と彼の香りが私を纏っている。

静かにすうっと息を吸うと彼の香りとは違う何かの匂いが鼻を掠め、サイドテーブルがある横へ向き直ると花が置かれているのが見えた。




―静かに眠るあなたにアザレアを
花言葉:愛されることを知った喜び



In Love Again