「あ」
選択講習も終わり歩いてノクトのマンションへ向かっていると自動販売機を見つけた。
イグニスがいつも好んで飲んでいるエボニーコーヒー専用のものだ。
コーヒーはミルクを多めに入れたものが好きでブラックで飲むことはまずないが、この日は好奇心の方が勝ったのでシギルはひとつは自分に、もう一つはイグニスに買ってみた。
「にっ.....がい..」
開けるとふんわりとコーヒーの良い香りがするが、一口含むと口の中全体が苦味で覆われて後も引く。
「シギル?」
名前を呼ばれ、眉根を八の字にしたまま振り返るとイグニスだった。
「珍しいな、ブラックのコーヒーを飲むなんて。ミルク多めが好みだっただろう?」
「うん...イグニスがいつも飲んでるから買ってみたんだけど予想以上に苦かったよ」
まだ開けていない方のコーヒーをイグニスに渡し、一口飲んだものをどうしようかと悩んだ。
「飲まないんだったら貰おう」
「うん」
自分が口にしたものを渡すのは少し気恥ずかしくもあったが、イグニスはさして気にしていないようだった。
それは納涼祭で食べたかき氷の時もそうだったが、今考えると照れ臭くも思える。
◆
「あーもー、補習のプリントやばいよー宿題もやばいし、全部やばいよ....」
「大丈夫だってプロンプト、まだ時間はあるし」
ノクトの家でそれぞれ課題と宿題を持ち込み、時折イグニスやグラディオに聞きながらこなしていた。
「ノクトは寝ないで...」
「んー...」
「少し休憩でもしたらどうだ?」
本を読んでいたグラディオが声を掛け、キッチンで何かを作っていたイグニスが涼しげなグラスを持ってやって来た。
「コーヒーのグラニータを作ってみたんだが」
薄茶色の細かい氷がグラスに入り、上にはホイップクリームが乗っている可愛らしい見た目だった。
「やったー!イグニスのおやつ!」
プロンプトは喜び、早速食べ始め一口毎に歓喜の声を漏らす。
シギルも、クリームとグラニータを一緒に掬い口に入れた。
ほんのりとコーヒーの苦みと、クリームの甘さが広がった。
「これ、もしかしてエボニーコーヒー?」
「あぁ、これなら大丈夫だろう?」
「うん!すごく美味しい」
シギルの姿を見て満足そうなイグニスと
コーヒーは無糖でミルク多め、と決まっているシギルのホイップクリームが少し多めなのを見て
ノクト、プロンプト、グラディオは顔には出さないものの
心の中で笑みを零した。
(甘いよな)
(甘いよねー)
(甘いな)
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