稽古をひと段落したニックスは一息吐きながら廊下を歩いていた。

話し声が聞こえ足を止めその方向を見ると、度々自分が送迎兼護衛任務でよく付き添うウィンクルム夫妻が居た。

二人と一緒に話している少女は見慣れない。

いや、どこかで会った記憶もある。

年の頃はノクティス王子と同じくらいだろうか。


「ニックス、何してるの?こんなとこで」

クロウが声を掛けながら此方に向かって歩いてきた。

自分の隣に立ち見ていた先に同じように視線を向けた。
彼女の胸の装飾の赤い石が、夏の日差しに照らされて一瞬眩しさが襲った。

「あぁ、ウィンクルム夫妻とご令嬢ね」

「娘か....俺らと同じくらいの娘息子も居ただろ?」

「上二人は双子であたしらと同年代。あの子は一番末のお嬢ちゃんよ」

クロウにそう言われ改めて見ると、どことなく双子の兄妹と目元が似ている気もした。

「王子と同じ年齢だよ。昔夫妻と一緒に来たじゃない、覚えてない?」

そう言えば、度々自分たちの故郷へと夫妻は訪ねてきてくれた時期があった。
一度だけ、小さな子供と一緒に来ていたがそれがあの少女だったのだろうか。

両親の後ろに控えめに隠れる様に立っていた記憶がある。

「セレナには大分懐いてたけど、あんた仏頂面だから警戒されてたもんね」

その時を思い出しクロウは廊下に響かないようにククっと声を抑えながら笑った。

言われて、妹のセレナが羽根飾りの御守りを作って渡していたのを喜んで受け取っていた姿を思い出した。

二人が川遊びに行く時も一緒について行き、葉の船を作って流してやると夢中でそれに見入っていた。

「ほんと、夫妻には感謝してもしきれないね」

クロウは小さな笑みを浮かべ、3人を見ていた。

ニックスたちの出身地でもあるガラード地方の故郷は一度、ニフルハイム帝国の支配下になるかならないかの瀬戸際にあった。

魔法を使う能力に長けた民の力を欲した帝国軍は、故郷諸共支配下に置き魔道兵と魔法が使える人間との二つの力を手に入れたかったのだ。
クロウは元々孤児だったが、養子に迎えられニックスやリベルトと共に兄妹の様に育ってきた。

王都より遠く離れた辺境の地は、手放したところでさして大きな痛手にもならないかもしれない。
レギス国王陛下の命もあってのことだとは思うが、ウィンクルム夫妻は何度もニフルハイム帝国との話し合いを重ね侵略を免れた。
数年に及ぶ期間だったと思う。
武器を使わずに、交渉だけでそうする事が出来た夫妻の力には感服した。
もしも彼らの力になることがあるならば、この身をかけてそうしようと幼いながらにも思った。

そして時が経ち、王都での特殊部隊入隊話が持ちかけられ
中でも能力が長けているニックスリベルト、そしてクロウもこの地へと移った。

故郷で早くに結婚し家族を持ち静かに暮らす選択も出来たが、自分が決めたこの道に悔いはなかったと今は感じている。

夫妻が嬉しそうに娘と話している姿を見て、ニックスは故郷の家族の事を思った。

「ニックス、クロウ」

「あ、時間だ。行こうニックス」

ドラット―将軍に呼ばれニックスとクロウは稽古場へと向かった。



「少し息抜きにオルティシエに来たらいいじゃない、ノクティス王子と一緒に釣りだってできるわよ!」

「私は選択講習だし、ノクトとプロンプトは補習だよ」

「あら...」

「ははは!ノクティス王子の補習はこちらまで情報が来てなかったな」

「きっとイグニスがどこかで止めてくれたんだと思う...」

シギルは王都城に戻ってきていた両親に会いに来た。

新しく用意された邸宅を早く見せたくてうずうずしている両親と(とは言っても主に母)

久しぶりに再会したノクトとプロンプト達と夏休みを出来るだけ一緒に過ごしたいシギル。

「まぁ、シギルにも予定があるからな。何も夏じゃなくても冬休みだってあるだろう」

「うん、秋にも連休があるからその時行こうかな」

よく磨かれた大理石の廊下には3人の話声が響く。

「私たちの護衛兼オルティシエまでの送迎にはニックスが来てくれてるのよ」

「ニックス?」

首を傾げる娘に父は苦笑した。

「大分昔、一度だけ会った事があるが...川遊びをしたのを覚えてないか?」

「あー...ガラード地方の方...羽根飾りをくれたセレナは覚えてる」

「の、お兄ちゃんよ。今日居るだろうから後で会ってきたらどう?」

「ノクティス王子と稽古してるだろうな」


執務へと戻る両親を見送り、シギルはノクトを探しに行った。

「稽古終わったかなー、ノクト」

スマートフォンを取り出し入力しようとしたところ、曲がり角で人と出くわしぶつかってしまった。


「あ...!っと、ごめんなさい...」

落としそうになったスマートフォンを間一髪受け止め手に戻してくれた。

「っと、失礼。ウィンクルム夫妻の...」

「セレナのお兄ちゃん...」

思わずそう口にしてしまい、驚いた顔をしていたニックスは途端に声を出し笑った。

「あぁ、そうだ。ニックスだ、明日の朝君のご両親をオルティシエまで護衛するよ」

「よろしくお願いします」

身長差があるため、自分を見上げるようになってしまうのはわかるが
その顔が小さい頃会った時とまるで変わらず、懐かしさも込み上げる。
両親の後ろに隠れる様に立っていたあの少女のままの瞳だ。

「...君のご両親には本当に感謝している。おかげで俺の母親もセレナも故郷で元気に暮らせている」

シギルは小さく頷きニックスの話を聞いていた。

「また、セレナにも会ってやってくれ。きっと喜ぶ。」

「今でも葉っぱの船、作れる?」

「どうだろうな...暫く作ってないからな」

そう言ってニックスは笑った。

少しずつ日が沈み、一番星が見えだした。

楽しい夏休みも残りあと少し。



In Love Again