「おはようございます!」
「あら、おはようシギルちゃん」
今日は夏休みの講習はないが、ノクトとプロンプトからノートを貸して欲しいと頼まれている。
家を出て目に入ったのは立派な大きな笹だった。
「孫たちが来るからね、つい張り切っちゃって」
そう言いながら、いつも何かと旬の果物や野菜をおすそ分けしてくれるお隣のマダムは嬉しそうに門の付近の花に水やりをしていた。
「すごい、飾りが立派ですね」
ゆらゆらと風が吹く度に子供が好きそうなカラフルな飾りたちは左右に揺れる。
王都城で幼少期をノクトとイグニスと過ごしていた時の七夕をおもいだした―。
あの日、夕陽が沈むまではまだ少し時間があった。
珍しくノクトが癇癪を起こし、いつも宥めていた乳母もイグニスさえも困り顔だった。
ちょうどみんなで七夕の飾りつけをして、願い事を短冊に書いている時だった。
部屋の中にシギルの両親と双子の兄姉も入ってきて
母のウェヌスはすぐにノクトを抱き上げた。
そのまま、大きな窓ガラスがある方へと行きノクトに何かを話しかけながら背中を擦り小さく歌を歌っていた気がする。
シギルは何となく見ない方がいい気がして、すぐに顔を逸らすと姉がそれに気づいたのか自分を抱き上げて飾りを一緒に見た。
自分でもどうにもできなかったことにショックを隠せないイグニスには兄が付き、各国の七夕に似た行事についての話をしていた気がする。
姉は恐らく自分が母親を取られた感じがしてやきもちを妬いているのだろうと思っていたのかもしれないが
その時シギルは初めてあんな泣き方をしたノクトをあまり見ない方がいい気がして顔を逸らしたのだ。
少し時間が経った頃、普段のノクトにすっかり戻りそのあとは皆で短冊に願い事を書いた。
あの時、母はなんといって宥めたのだろう?
そんな事をふと思い出した。
「そうだシギルちゃん、よかったら・・」
マダムに名前を呼ばれてハッと意識を呼び戻された。
◆
「おじゃましまーす、ノクト入るよー」
「おー、悪いなシギル」
玄関からの呼び声にノクトは応えると、かさかさと何かが擦れる音と共にシギルが登場して驚いた。
「あー、笹だね!すごい立派だね、どしたの?」
伸びをしながらプロンプトは聞いた。
「お隣さんがくれたの」
「そうか、今日は七夕だったな」
イグニスはシギルから笹を受け取った。
「子どもの時以来だな・・うちでもイリスが友達と今日集まって何か楽しそうにしてたな」
ソファで本を読んでいたグラディオは、そう言いながら本を閉じた。
「ね、折角だしベランダに飾ろうよ!広いんだし」
「あ、いいねー!短冊に願い事も書こうよ」
シギルの提案にプロンプトは喜んだ。
◆
「ノクトの野菜嫌いが治りますように・・・イグニス、その願い事!」
思わずシギルは声を出して笑った。
「なかなか偏食が治らないからな。」
「あははは!もう、天にお願いって感じだねー!俺はやっぱり可愛い彼女が出来ますように・・っと。ねね、グラディオは?」
「んー?そうだなぁ」
皆でテーブルを囲みあれやこれやと言いながら短冊に願い事を書いている間
ノクトはベランダに出て笹に付いている飾りを指で触れながら日が暮れて一番星が見えだした空を眺めていた。
「ノクトの願い事は?」
後ろからシギルは声を掛け、隣に並んだ。
「願い事なぁ・・シギルとイグニスがさっさとくっつくようにって書いとくか」
「ちょっと!」
ふざけながら叩く素振りをするシギルの手をノクトは受け止め笑った。
「昔、親父が一緒に七夕の願い事を書こうって言ってたのに帰って来れなくて・・泣き喚いた時があったな」
ふと小さく漏らした声に、シギルは何も言わずに聞いていた。
「懐かしいな」
そう言うとノクトは部屋の中へと戻って行った。
シギルは持っていた自分の短冊を、自分の届く精一杯の高さの所へと結んだ。
―みんながずっと、笑顔でありますように。
「シギルー!」
「今行く―!」
プロンプトの呼ぶ声に返事をして部屋の中へと戻った。
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