気がつくと一気に気温が下がって、1桁になる朝方。
青々としていた緑道の木々も黄色、茶色と季節の移り変わりに合わせて変化していた。

シギルは専門教科講習の調べ物で王都城隣にある図書館へと来ていた。
高校生で利用する者もあまり居ないが、歴史に関する専門的な分野の図書など一般利用にはないものを多く扱っていて
身分証明書と担当教員の承認書を持っていけば館内での読書が可能だ。

両親、親戚が王都城内勤務とはいえシギルも学生証と承認書を渡して館内に入り必要な参考文献を選び、ノートにメモをしてその場を後にした。

今日は稽古だと言っていたノクティスを思い出し、王都城の稽古場へと向かった。
石造りのひんやりとしたこの長い廊下はまるで、海外の古い教会のようにも見える。

実際に、この王都城のいくつかの部分では国外から取り寄せた花崗岩なども使用されている。
修繕改修のため取り壊しになった教会の窓ガラスを再利用した部屋もあった。

稽古場へと着くと、ドアが開きノクトの稽古を担当してる者が出てきて軽く会釈をした。

『ノクトお疲れ様』

中に入ると息を整えベンチに置いてあるタオルに手を伸ばしていたノクトがいた。

『おーシギル、学校から直?』

『ううん、隣の図書館行ってた。』

タオルで顔を拭うノクトは
んー、と短く返事をした後に2リットルの半分ほど残っていた水を飲み干した。

タンクトップから伸びる腕や鎖骨あたりを見ると、自分との体格差を感じる。

目線も少し見上げるくらいになり、知らぬ間にこんなにも成長していたのかとシギルはしげしげと見つめた。

『なんだよ、どうした?』

笑いながらノクトは空になったペットボトルで頭を小突いてきた。

『ん?うーん…私も護身術くらい習おうかなって』

『急にどうした、何かあったのか?』

『そういうわけじゃないんだけど、何となく…今後の為に』

何だよそれ、とノクトは笑い
使っていた道具を片付けに行った。

何となくというわけではなく、今後の自分が進む道においては必要になるからでもあったが
今それをノクトに伝える気はしなかった。

『そういや昔、レイピア使って稽古してたよな?』

『あぁ!やってたね。小学校までで…それきり』

『また始めてもいんじゃね?身体も思い出すだろうし…あ、ヤベ。親父のとこ行かねーと。とりあえずまた連絡するわ!』

急ぎ足で稽古場を後にして行った。
誰もいない中、夕陽が床を照らし窓の装飾の影が映る。

シギルは先ほどノクトが入っていった倉庫の中へ行き、レイピアを探した。

『あった!』

稽古用ということもあり、装飾がないシンプルなものだったが実戦でも使える仕様になっていた。

何となく覚えている構えをした後に振りかざすと、ヒュッと空気を切る音が場内に響く。
意外にも習っていた時のことを思い出してきたのでいくつか構えを連続でやってみた。

ゴツ、と丈夫そうな靴が床を踏む音がしてその方向を見るといつの間にかニックスが居た。

『これはまた珍しいな、お嬢様。』

これから王の剣の者たちも稽古をするのか、動きやすそうな伸縮性のあるスーツに身を包み指先が出ているグローブを嵌めていた。

先程見ていたノクトの体格とは比較にならないほどに逞しく、日々の鍛錬を表しているようだった。

『1人で稽古か?』

『ニックス相手してくれる?』

『そんな事したら城どころか、この国に居られなくなるだろう』

そう言って苦笑いを零した。

『えー…だってノクトは稽古してもらってるのに』

『そりゃノクティス王子には必要なことでもあるし、許可もおりてるだろう』

ニックスはシギルの前に立ち、持っていたレイピアを見た。

『構える時の姿勢くらいなら、追い出されないか』

シギルの後ろへと周り、利き腕を取り目線と姿勢を直しながらアドバイスもくれた。

肘を掴まれ上に持ち上げられた時に普段使わない筋肉が動いた感覚があり、明日は筋肉痛になりそうだとシギルは密かに思った。

『悪い意味で受け取って欲しくないんだが、稽古をつけてもらうなら女性にして貰ったほうがいい』

シギルはそのままニックスの顔を見つめて話を聞いていた。

『俺と君とじゃ体格差もあり過ぎるし…第一、そこまで鍛え上げる必要はないだろ?』

『んー…うん。自分の身を守るくらいかな』

それを聞いてニックスは笑い、レイピアをシギルから自分の手に持ち替えた。

『君や…君の御両親がこういう物を持たなくても良いように俺達は居るんだ』

ニックスはレイピアの持ち手部分の緩みが気になったようで見回した。

『私ね、高校を卒業したら…』

シギルが言いかけた瞬間に
ガタン、と木製の扉が開く音がして続々と王の剣の者達が入ってきた。

『あれ、ニックス…とお嬢様じゃない』

グローブを嵌めながらクロウが2人の元へとやってきた。

『ちょっと、危ない事教えないでよ?怪我でもしたら大変』

『2人きりで会うならもう少し良い場所選ばないとな』

冷やかしも含めてルーチェが言った。

『ここじゃ秘密のデートも出来ないな。』

冗談に乗ったニックスはそう言ってシギルを入り口まで行くように促した。

『ありがとう、ニックス。稽古の前なのに…』

『いや、気にしなくて良いさ。さっき何か言いかけたようだったが…』


シギルは首を振って笑顔を作った。

『ううん、何でもない。またね、ニックス』

『…あぁ、また。』


シギルが出て行くのを見送り
ニックスは首を左右へと軽く揺らし、稽古へと集中した。



In Love Again