長らく退屈という名の平和な日々が続いていた朝だった。ストッキングに覆われていることを惜しむような白く長い脚を投げ出して、ソファに寝そべる姿は宿直明けのもちが“退屈”を表す姿だった。「お前、もう少しどうにかならないのか?」曖昧な言葉を投げかけたサイトーの視線の先には、上体を起こし齧り付いているアイスのカケラが細かい屑となってもちの豊満な胸元に落ちた。もち本人は注意を払い食べているつもりではあるが、食した部分の端が不足した部分の後を追うように崩れていくことが煩わしい。しかしサイトーから見れば艶めく谷間に吸い込まれていくように見えており、一日の始めに何てものを見せる、という感想を抱いたのであった。


「だいたいねえ、暇なのよ、忙しいのも嫌だけれど…」
「いつものにするか、煙草で済ませろ」
「パズがくれたの」


もちはその魅惑的な身体に似合わず――というわけではなく、聞き込みや電脳に長けた非戦闘員であった。もちろん九課に属している以上、銃を持たせれば其処らの軍兵よりは働くが。スリリングをモットーとする彼女は皆有り難がる平和が訪れると決まって、安い懐かしの棒付きアイスを食べながら鬱憤を晴らしている。身に着けるものは(どうやら貢品であるようだが)金に糸目をつけない品物ばかりであるが、それだけは辞められないのだと。日課の暇潰し要員である新聞に視線を戻し彼女の愚痴を聞かされていたサイトーが、ポーカーフェイスを保ちその言葉に反応する。


「パズ?」


あのスケコマシがそんな気の利いた真似するだろうか。いや、この会話ですらもちの鬱憤晴らしの一環かもしれない。僅かに視線を逸らしもちを覗き見るも、零れ落ちる屑に夢中になっているもちの姿を見て思い過ごしかと再び視線を戻した。「ほんともう、食べにくい」薄く光る桜色の唇に屑を張り付けては文句を零した。


「良いから早く帰れ、就業時間外は働かないんだろう」
「仮眠室で待っててあげるって云ったら?」
「セーフで風呂入って待ってろ」


最後まで食べ終えて唇を一舐めするとヒールを鳴らして立ち上がった。「そうしよ。じゃあね、お先」コツコツと響く音が真後ろで止まるともちの唇がサイトーの唇へと密着した。食むように縋る相手に応えてやると、満足したのか足音が離れていった。巻いた髪がいじらしく振れたインターフェイス部分を掻きながら大きな欠伸を漏らした。


160318

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