「あーん、仕事したくなあい…」
「馬鹿云わないで。毎日毎日酒と煙草と薬とで…頭の中まで溶けてしまったの?」
「薬はやめたから、ちょびっとだけ。今はポーカーがわたしの流行りよお」


助手席に座り踏ん反り返りながら煙草を吸うチェーンスモーカーにベルモットは窓を開けながら答えた。途切れない煙草は薬切れを補うように矢継ぎ早に火がつけられ、車内はすっかり白い煙に満ちている。窓から入ってくる風はひんやりと冷たく、身体を冷やしていくがいくら喫煙者のベルモットも耐えられない状況だ。


「ううう…寒いよベル…」
「誰のせいだと思ってるの」


行き場の無くした人々の掃き溜めのような場所からナマエを拾い上げたのは、もう数十年も前になる。もちろんただ目が付いたからとかそんな慈愛精神ではなく、彼女の持つ類まれなる才能――といっても、表社会では全く役に立たないようなものだが――を見つけてしまったからだ。しかしナマエといえば、未だにその時の生活が抜けず時間を見つけてはあの掃き溜めに戻り堕落した生活を送っている。余りにもやる気のない姿に嘗てジンの短い気に触れ銃弾を撃ち込まれたことがあれども、彼女が変わる様子はない。


「未だに思うわ…わたし、なんであなたを拾ってしまったのかしら」


とはいえ、彼女の持つ才能の代わりはそう易々とは現れず、結果的にナマエの面倒は全てベルモットに押し付けられることになり電話さえもジンはナマエに寄越すことがない。組織に入れて身の回りのことを整えてやれば自立して上手く使える駒になるであろうと思っていたのだが、そうはいかず彼女の誤算として未だに面倒を見る羽目になっている。


「んもう…そういわないでよ、ベル」


ホテルの駐車場に停車するとナマエは運転席へ身を乗り出しベルモットの唇に己のそれを重ねた。左手はするりと滑るようにドレスのスリットから覗く白い大腿に伸ばされている。適当にあしらおうとは思うがナマエの表情を見てしまうとどうにも構ってやりたくなる衝動に駆られる。唇をノックする舌に答えてやるように少しだけ開口するとそこからはもういつも通りの流れだ。にんまりと笑うナマエの顔に左手を添えてやると嬉しそうに顔を綻ばせる彼女にどうしても甘やかしたくなってしまう。


「カーセックスでも良いけど、折角なら暖かあいお布団のほうが、ベルはいいよね」
「付き合ってやるなんて云ってないわよ」
「やあだ」


リップ音を残し離れていく唇にどうも云い難い気持ちが生まれ今度はベルモットからナマエへキスを落とすと、気を良くしたナマエが待ち切れないとでもいうように早々と車を降りていく。機嫌良くじっとベルモットを見つめる姿が”待て”のできない犬のように見えてくすりと笑みを零すと彼女を追うように車を降りた。


160605

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