丁寧に伝えること




秘書検定の勉強を始めたのは大学生の時だった。
その当時、心理学専攻だった私は、なんとなくこのまま会社に就職することに抵抗感があった。
だってその会社、私と同じような人がたくさんいるんでしょ?そんなのは無理。

社会を知るために秘書検定の勉強を始めたのは正直言って失敗だった。
問題に出てくる重役はいつもご機嫌斜めだし、お客はいつも約束を守らず突然やって来るし、重役の家族は不在の時に限って電話してくるし、出張に行くなら上司のアレルギーについて先方の秘書と連絡とらなきゃだし。
学生の身分でこんなこと言うのはあれだけど、自分のご機嫌くらい自分でとってほしいし、約束くらいいい大人なら守ってくれよって思うし、家族だってメールで済ませることをいちいち電話してくんなよって感じだし、アレルギーくらい自分で避けろよって思う。
結局勉強して思ったことは、自分の責任だと思える瞬間がこの日本という国にはめちゃくちゃ限られてるってこと。
嫌なことがあったらすぐにクレームを入れて仲間内ですぐに愚痴を言って、自分のあの時の行いに問題があるなぁって反省できるのはほんの少数の人間だけ。

島国ゆえの習性なんだろうけど、他人の人生に口出しできる人ってマジで暇なんだなって思えた。
そしてその人がとても寂しい人だってことも。

あまり人と喧嘩する趣味を持ち合わせていないのでその場ではこらえているが、なんだかんだ腹は立てている。
そして、そんな意見は年上であればあるほど言いにくかったりする。
ご年配の方は若輩者がいうことよりも自分の経験を信じている生き物だ。
だからこそ口ごたえしない。その方が本人も幸せだろうし、ご年配の尻拭いをするのが若輩者の努め。
というのは建前。本音はもう老い先短い人間に、何かを教えるのは無駄だということ。
あのくらいの人は大体プライドがある。そこを刺激してしまうと、妬み愚痴モードになる。
「最近の若者は」って聞くでしょ?それね、うんざりするんだわ。
だから適当に立てておいて適当に褒めておいて適当なところで捨てる。
それが一番楽な生き方だし、文句を言うならじぶんの人間性を恨んでくれやい。捨てられるほうが悪いわ。

そんな考えが自分の中で唯一無二だからこそ、こんな検定試験の勉強なんてよくやったなとほめてやりたい。

- 2 -

*前次#


ページ: