禁じられた森での一件以来、三ヶ月ほど、レイチェルとニュートはその顔を合わせることは無かった。仲良くなれるだろうか、と胸を高鳴らせていたレイチェルの姿は既にない。
(出鼻をくじかれた気分だ)
レイチェルは頬を膨らませた。ハロウィンならもしかしたら、と思ったが、それも早々に諦めた。余りに人数が多いし、これでもスリザリンの寮生であるから、大々的にニュートと歩いては不味いかなと思ったからである。クリスマス・イヴまでにはまた出会いたいな、と思案しつつ、スリザリンカラーのマフラーを首に巻いた11月。スリザリン寮内の同い年の中では、専ら「クールで頭が良い」「素敵なひと」という噂が立っていることを知らず、レイチェルは今日も友人を作るために笑顔を振りまいている。息苦しい、と思いながら。
・・・
雪の降る昼。太陽は姿を雲に隠し、こんな寒い日には談話室で話すに限る、と言いながら姿を消す生徒達を横目で見ながら、レイチェルは空から零れ落ちる結晶を掴んだ。……冷たい。ニュートにも会えない、リタも忙しそうにしている、クラスメイトに近付けば顔を逸らされてそそくさとその場を後にされる。レイチェルは暇を持て余していた。折角なのだから、ホグワーツで友人でも作りなさい、と、魔法省に務めている兄は言ったけど、友人なんて作れて無いのに、とレイチェルは手を握った。固く握った手を開けば、手のひらは霜焼けのようになっていて、指の先が赤く、その他の部分はもとより白い肌がもっと深い白に染っている。
「……寒い」
「当たり前じゃないか。何時間此処に居たんだい、レイチェル?」
返ってくるはずの無い独り言。人見知り特有の吃りがさっぱり消えてはいたが、その声には覚えがあるし、その言葉と共にレイチェルの手にその手を重ねてくれる優しさにも、覚えがある。手、もしくはその下、降り積もった雪を見ていた視線が上がれば、そこにはレイチェルが予想した通りのニュートの姿と、レイチェルが予想していなかったリタの姿があった。
「リタさん?」
「レイチェル、此処じゃ寒いわ。談話室には行かなかったの?」
「……だって、皆はわたしと話してくれないから」
「恥ずかしがってるだけよ。レイチェルは綺麗だから」
「、リタさんはニュート先輩と知り合いだったんですね」
わたしも二人、少なくともリタとは仲が良かったはずなんだけれど、と不満を膨らませているレイチェルに、リタとニュートは顔を見合わせ、そして笑った。仲間はずれにしていた訳じゃないのよ、とリタが言い、言うタイミングが無かったんだ、とニュートが言った。寒いでしょう、とニュートの手が重なったレイチェルの手をリタの手が覆う。まるでニュートの手を邪魔だと言うような覆い方をするリタに、レイチェルは首を傾げた。
「仲良しなんじゃないんですか」
「あら、レイチェルは別よ」
「僕が先にレイチェルの手を温めていたんだけどね」
「先にレイチェルの所に行っただけでしょう」
ニュートにしては珍しい、そしてリタの性格にしては珍しい、軽いいがみ合い。レイチェルは一瞬目を丸くしたと思えば、その次の瞬間には、笑ったように息を吹き出した。レイチェルの笑みに、リタとニュートは目を奪われる。レイチェルは気が付いて居ないが、この時の笑いがホグワーツに来てから初めての心の底からの笑みであり、それを直に見た二人は益々レイチェルに傾倒していく、と言えば聞こえは悪いのだけれども、レイチェルを可愛がることになる。
「仲良くなれるかな、と思っていたら、三ヶ月も会えないなんて思いませんでした」
「まさかレイチェルが僕に会いたがってるとは思ってなくてね」
「その言い方なんか嫌です」
「私にも構って?レイチェル」
「リタさん、……そういえば、今日の声は少し掠れていますね。風邪ですか?」
「そうかしら、気付かなかったわ。……風邪かしらね」
結局三人は談話室には戻らず、雪の積もったベンチから雪を落とし、レイチェルを真ん中に据えて、そこに座っていた。先輩たちに挟まれたら寒くないですね、とレイチェルは言っただけなのだが、それを聞いた二人が目の色を変えたのである。ベンチから雪を落としてくれたのはリタだ。ありがとうございます、と言いながら、レイチェルは両隣の温かさに眠気を感じた。眠っちゃ駄目だよ、と、ニュートの声がする。
「、はい」
「ふふ、眠そうね」
「ねむく、ありません……」
「リタ、そろそろ帰ろうか。送るよ」
「駄目よ。あなたハッフルパフじゃない。スリザリンに来たら蜂の巣だわ」
「大丈夫ですから」
「この中で寝たら風邪を引くから駄目なの。わたしがレイチェルを送るわね」
「……」
「嫉妬しないでよニュート、確かにレイチェルは可愛らしい私達の後輩だけど、彼女はスリザリンなのよ」
「……分かってるさ」
久しぶりに会えたのだから、まだ離れたくない、と、レイチェルは眠気の含まれた声で呻くように呟いた。リタの肩に掛けられたレイチェルの手をリタが持って撫で、レイチェルの向かい側からニュートはレイチェルの頭を撫でた。
「今度は近いうちに会えるよ、レイチェル」
「ほんとですか、せんぱい」
本当さ、とニュートは言う。レイチェルはその言葉に微笑んで、遂に意識を落とした。レイチェルが寝たことを感じたリタは、レイチェルのことを抱える。所謂、お姫様抱っこのような形態で。ニュートがそんなリタに驚けば、リタは「レイチェルは軽いもの。心配になるくらいね」と笑った。
「クリスマス・イヴパーティ、ちゃんとレイチェルも連れていくわ」
「楽しみにしてる。宜しく、リタ」
クリスマス・イヴパーティで、という言葉が抜けているニュートの真意にレイチェルが気が付くのはわりと早くて、リタの着せ替え人形にされるであろうことも察していたけれど、また三人で会えるのかと心を踊らせながら楽しい夢を見ているレイチェルは、まだそんなことを知りもしないのだ。