淡い青をこの瞳で見ると、何かを見透かされている様な気分になって、居心地が悪い。
 それがレイチェルがダンブルドアに抱く第一印象であって、現在も心の準備をしなければそう思ってしまうほど強く感じていることだった。

「で、何か御用ですか?ダンブルドア先生」
「君にお願いがあってな、レイチェル」

 白のブラウスに黒のプリーツスカートと、それと同色のジャケットを羽織り、それよりも紺に近い長い黒髪を揺らす若干26歳の女性と呼ばれるべきレイチェル・レイブンクローは、迷っている。そして、困惑していた。

「あなたが、わたしに?」
「君の敬愛するニュート・スキャマンダーが今どこに居るか、知っているかね」
「……赤道ギニアですか?」
「ニューヨーク、だ」

 どうしてダンブルドアがこの話をわたしにしているのか、わたしが大切に思っている二人の先輩の片割れがどうして今アメリカに居るのか、全て。レイチェルには分からないままで。
 レイチェルは魔法省の中でも国際魔法協力部に所属している為、ニュートという外国でドジしたり問題を起こしたりする先輩の後始末に走り回ることが多い。けれどもそれを苦とは思っていなくて。ニュートが外国で魔法生物の情報を纏めてくるとレイチェルに言った時、ニュートは「迷惑を掛けるだろうけど」と、それと共に言葉を発したので、レイチェルにはニュートが迷惑を掛ける気満々なのだろうなということは分かっていた。あの人はレイチェルには容赦がない。

「それを、どうしてわたしに」
「――イギリス魔法省本庁、国際魔法協力部所属、レイチェル・レイブンクロー。君に、ニュート・スキャマンダーの監視をお願いしたい」
「、つまり?」
「アメリカでニュートのサポートを頼む」

 そしてまたこのアルバス・ダンブルドアも、レイチェルに容赦なんて無かった。レイチェルはため息を吐くが、ダンブルドアは自分のことを良く分かっているな、とふと考え、そしてしれっとした顔で、「まあ良いんですけど」と言った。

「先輩の為なら、何処へでも」

 ダンブルドアは頷き、レイチェルを見る。オリバンダーの店で買ってから一度も変わっていない、自分の、自分だけの杖を、レイチェルは振る。ホグワーツの創始者の一人、ロウェナ・レイブンクローと同じ色彩のレイチェルは、ダンブルドアが瞬きを一度する間に、その場から消えていた。

・・・


 アメリカ合衆国、ニューヨーク。頼りにしている愛しの後輩と自身の恩師が自分に関しての会話をしているなんて露知らず、ポーペンティナ・ゴールドスタインと名乗るマクーザの女性に連れられてアメリカの魔法省へとやって来たニュートは、ふと渦中の後輩を見掛けた気がして足を止める。

「スキャマンダーさん?」
「あ、……ああ、なんでも、ありません」

 ぐるりと大きな時計のようなものが真ん中に立っている。恐らく危険度を察知するシステムの一つだ。幾分か軽いトランクを持ちながら、ニュートはティナと共に会議場へと向かい、そしてピッカリー議長に追い出され、魔法の杖認可局へと辿り着いた。ティナの職場はどうやらここらしい。人見知り故か俯いているニュートは、認可局の外からかつかつと近付いてくる靴音の正体に気付くことはなく。けれどもその音に肩を縮こませるも、聞き慣れた女の声が聞こえた時点で、安心したように顔を上げた。

「イギリス魔法省国際魔法協力部所属、レイチェル・レイブンクローです。ご迷惑をお掛けしてます、マクーザの……あー、ミス・ゴールドスタイン?」
「レイチェル……!」
「どうもこんにちは、先輩。また問題を起こしたんですか?」
「いや、その」

 実はトランクが入れ替わってしまって、とニュートが零せば、レイチェルの青い瞳は大きく開かれる。何馬鹿なことしてるんです先輩、ほら探しに行きますよ、とニュートの腕を掴んだレイチェルをティナは止める。

「私も行くわ」
「ん、……んー……。まあ、ええ、良いですよ。行きましょうか、ミス・ゴールドスタイン」
「ティナで良いわ、あなたは、えっと」
「レイチェルで良いですよ」
「分かったわ、レイチェル。行きましょう」

 幾つか年下のティナを美人だなあと眺めながら魔法省から出るレイチェルは、レイチェル自身が視線を集めていることに気付いていない。魔法省から出て後ろを振り向き、ニュートに心当たりを聞こうとするレイチェル。

「さて先輩、心当たりは――」

 しかしそれよりも先に、どかん、ぱらぱら、と大きな音がする。何かが崩れる音に、レイチェルとニュートは顔を見合わせて頷き、オブリビエイトにレパーロを上乗せしながら、音がしたマンションに登っていく二人。住んでいるのは勿論マグル――現地の言葉で言うと、ノーマジック、ノーマジだ。魔法生物に噛まれたらしいが……。

「来て」
「……ティナちゃん?」

 状況把握が満足に出来ていないノーマジを連れて、ティナは踵を返す。どこに行くのだろうかと思いつつ、彼女の性格ならば悪いことはしないだろうと思案したレイチェルは、ニュートの背中を押した。

「行きましょうか、先輩」