小さな星より
「もしかしてごうくん、わたしのこと、好きじゃないのかな……」
「は?」
 ぽつりと不安を零せば、向かいに座っている進くんがぽかん、と口を開けた。
 件の人物である剛くんは今ここには居ない。進くんと霧ちゃんの結婚式前に起きた事件を追うために奔走しているから。
 今は剛くんが追っている事件に協力する為の聞き込み調査中なのだけれど、どうやらわたしは落ち込んでいるみたいで(一緒に居る進くんにそう言われた)、進くんが相談を聞いてくれるらしい。落ち込んでいるというか、この感情はそういう物よりも、チリチリして、ちくちくしていると思うんだけど。
「どうしてそう思ったんだ?」
「……だって」
 くるりとストローを回しながら溜息を吐いた。思えば二年前も、わたしは勝手に剛くんに付いて回って、色んなことの邪魔をして。言ってみれば、ただ意味の無い置物で。ちょろちょろと周りを動かれて迷惑だっただろうなあと思うと、やはりわたしのやっていたことは、剛くんにとって目障りだったとしてもおかしくない。
「わたし、剛くんに、迷惑しかかけてないし、それに」
「それに?」
「……令子さんみたいなひとが、好きなのかなって」
 好みというよりかは、一般的な思考から外れて大罪人となった親を持つ子供、という共通点があることで、強く共感して、助けようと思ったのだろうけど。
 令子さんは大人っぽいし、少し霧ちゃんに似ているし、凄くしっかりしているひとだ。――あの時。あの決戦の時。剛くんの傍に居たのが私ではなく、令子さんだったら。
「たらればなんて考えるのは辞めろ」
「でも、わたし」
「剛は、お前のことが好きだよ」
 進くんに言われたその言葉に、ひゅ、と喉が詰まる。何となく生暖かい視線を感じて、目線を下げた。
「剛くんに好きなんて言われたことないもん」
 わたしは言ったけど。剛くんが、みんなが教えてくれたわたしの感情が、剛くんのことが好きだと言っていたから。
「剛くんはきっと、わたしのことなんて好きじゃないよ」
 眠りにつかなかったシフトカーを握りしめる。唯一無二の、わたしの。クリムが、気を使ってくれたから。パパとママの形見だから、一緒に居なさいって。きちんとしたシフトカーではない、所謂プロトタイプだからこそ、こうしてこの子達は、まだわたしの傍に居るのだ。わたしの為に、居てくれている、なんて。自惚れているだけではあるのだけれど。
「……碧依」
「ごめんね、こんな話して。ちゃんと聞き込みしなきゃだね」
「碧依」
「なあに、進くん」
 席を立つ。生暖かい視線は途切れることなく。逸らしていた目を進くんに合わせれば、まるで大きくなったな、とでも言いそうな目をしていた。
「大きくなったな」
 うわ、本当に言った。
 何となくだけど、思春期の女の子ってこんな気持ちなのかなって。早く行こう、と言いつつも頬が熱くなっているのを感じる。ばたばたと帰る準備を整えている裏で進くんが小さく溜息を吐いているのには気付かないまま、わたしはエメラルドゴールドとスプリングシルバーをポケットの中に入れた。
「進くん、行くよ」
「ああ、今行く!」
 まだ、わたしの中に燻るこの感情の名前は、知らない。

「――剛の奴、まだ言ってないのか。そりゃあ不安になる訳だ」