Merci. ma soleil
「良かったのかい、アルテミシア」
「何がかしら、ノエル」
今頃はあの子達も助けられている時間ね、なんてぼんやりと考えていれば、隣に座っているノエルに顔を覗き込まれる。良かったのかい、という主語のない言葉の意味は分かるけれど、どんな心持ちでそれを私に言ったのかは理解できない。ルパンコレクションを盗まれてしまったルパン家当主としてあの場に行かなければならないのではないかという責任者としての言葉なのか、それとも初めから彼らとあの場所で過ごしてきた友人として復活する場を見たくはないのかという気遣いか。……どちらにせよそれは不要な心配だ。
「私はね、ノエル。ずっと叔父様が羨ましかったの」
「……うん」
「ああ、待って。貴方達を責めるつもりで言った訳では無かったのだけど……そうね。初めは責任を取るつもりで、見届けるつもりで近付いたのに、絆されてしまっていたわ、私」
いつの間にか、アルテミシア・ルパンの哀しみを、月村或音が埋めるようになった。歪なパズルのピースがはまっていく感覚は拭えなかったけれど、ずっと何かが物足りない気分だったから、少しでもその物足りなさを埋められるあの子達に驚いたのを覚えている。
本当に、びっくりするくらい、絆されてしまった。見守るだけの存在だった。死なせないと思うだけの存在だった。アルテミシア・ルパンでさえも、彼らのことを大切だと思ってしまった。
「だからこそ君は――」
「だからこそ私は、あの場には行かないわ。あの時間は、大切な人と再会する為の時間だから」
そのつもりであなたもあの三人を鍛えたのでしょうと呆れつつ笑えば、ノエルは小さな溜息を吐いた。
「君も成長したんだね、アルテミシア」
「さあ、どうかしら。案外あなた達と過ごした時と変わっていないかもしれないわよ」
私があの子達に絆されたように、あの子達もまた、敵側の警察と絆を結んでしまった。悪いとは嘘でも言えない。あの子達が命を落とさなかったのは警察があの子達を想ったからこそ。
「……コレクションもあと一つ。別れの日は近付いているわ、ノエル」
「ああ」
誰にも悟られないほど小さく芽生えた恋心には蓋をする。いつだって赤の閃光で目の前を切り開いてきた彼への想いも、コレクションを詰めた本を閉じるのと同時にしまい込んだ。
「Sourire , ma cherie adieu」