思い出すのは


絶え間ない攻撃。個性自体は触れられなければ、大したことはない。

いくら攻撃しても、諦めることなく突っ込んでくる丸顔に油断なんてしている暇もなかった。

さっさと諦めりゃいいのに、何度も何度も攻撃を仕掛けてくるのを迎撃していれば、いつの間にか会場からはブーイングの嵐だ。

気にはならねぇ。モブ共が騒いでるだけだ。そんな中で、真っ直ぐ俺に向かってくる声が聞こえた。


「勝己!!負けるな!!」


有象無象には混ざらない、一言一句聞き取れた言葉。名前は、俺の心境をわかってくれている。そう思えば自然と口角は上がっていく。

誰が負けるか、クソが。

放送が響いて、あれだけうるさかった有象無象がピタリと消えた。静寂に包まれた会場で、神経が研ぎ澄まされる。


「ありがとう、爆豪くん……油断してくれなくて。」


目の前で丸顔が、ひどく青い顔でデクみてぇな諦めを知らない目をしてこちらを見ている。

その瞳に負けを思わせる色はない。

なにか来る。そう思った次の瞬間、丸顔の視線は上へとずれて、俺もそちらを見る。

空からは無数の瓦礫が降ってくる。それはあの日を思い出させて一瞬ゾッとした。けれども、今回はあのときとは違う。瓦礫の下にいるのが名前でもなければ、当たるだけで死んでしまうそうな大きなものはない。

嫌な思い出を全て吹き飛ばすように左腕を持ち上げる。その腕を右手で支えてありったけの力で瓦礫を爆破した。


「あの日のこと、名前にでも聞いたか。瓦礫っつー判断は悪くねぇ。が、相手が悪かったな。」


戦闘服がない今、爆破の衝撃を和らげるものはなにもない。ずきずきと痛む手のひらを忘れるように息を深く吐き出した。

粉々になった瓦礫が俺を避けるように地面に落ちて乾いた音を立てる。

あの日を擬似的に体験させられたからか、ぷつんと糸が切れた気がした。


「いいぜ、こっから本番だ、麗日。」


体を傾けて一歩前へと足を踏み出した。麗日の個性に当てられないよう意識を注いでいたら、麗日の膝が折れて地面に倒れこんだ。

とっくに限界を迎えていたのだ。その限界すら超えるほど、勝ちたい気持ちは強かったんだろう。

ミッドナイトが俺を制止する。それだというのに、麗日はまだ地面を這って立ち上がろうとしている。

先ほどまで感じていた怒りに似た感情は、すっかり消えてしまっていた。


「麗日さん……行動不能。二回戦進出爆豪くん――!」


ミッドナイトの声が響いて、歓声が巻き起こった。リカバリーガールの元へと運ばれていく麗日に背を向けて、ちらりと1-Aの席を眺める。

これだけたくさんの人がいたってすぐに名前を見つけてしまう。その表情はよく見えなかったが、たぶん名前もあの攻撃であの日のことを思い出したんだろう。

自分自身の体を抱きしめているように見える。俺も名前も、結局あの日のことを忘れられないでいるのだ。

傍にいたら俺が抱きしめてやるのに、なんて柄にもないことを考えながらひんやりとした空気すら感じさせる通路を歩く。

次の試合のためだろうか。途中でデクに会っちまって名前のことは頭から消えた。


「あの日のこと、名前からでも聞いてアイツに教えたのか。厄介なことしやがってふざけんじゃ……」


麗日の様子からして名前からあの日のことを聞いたようではなかった。ならデクだろうとふんだ。一度名前がデクと昼飯に行っているのを見かけた。その日にでもあの時のことを聞いたんだろう。

デクと丸顔はよくツルんでるから、俺の弱みとして教えていたとしてもおかしくない。


「あの日、っていうのがなんのことかわからないけど、僕はなにもしてない。全部……麗日さんが君に勝つ為に考えて組んだんだよ。厄介だ、って思ったんならそれは……麗日さんが君を翻弄したんだ。」


結論から言えば、知られていなかった。だと言うのに、そう思わされたということは俺にとってあの日は弱みになっていたということだ。

ギリ、と奥歯を噛み締めながら応援席へと足早に戻っていった。

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