肉体強化と無重力
「障子くん、ちょっとこのままのペースだとやばいかも。」
「残り20分か。」
「ここは私一人で頑張るから、透ちゃんの援助してあげてくれない?」
「わかった。」
これは作戦だ。二人いた見張りが一人、それも障子くんのように先に見つけられる危険性の少ない私だけとなれば、狙われるだろう。
それを一網打尽にしなければならないのだ。深く息を吐き出して離れていく障子くんの背中を見つめる。
そして、その姿が見えなくなったところで、飯田くんのときのように、地上5cmほどの高さに強度の弱いテグスを張り巡らせる。
一応障子くんもこちらを伺ってくれているし、なにかあったら無線で連絡はくれる。しかし、障子くんのことだ。きっと透ちゃんのためにも頑張ってしまうんだろう。私は私で、出来る限りのことをやらなければ。
飯田くんのときは来る方向はある程度わかっていたので、トラップは一つだけだったが、どこから誰がくるかわからない状況なので、二つ三つ仕掛けたいところだ。
だが、そうすぐに新しいトラップを思いつくわけもない。仕方ないので、同様のトラップを死角になりやすい路地のほうへ複数貼った。
人質となってしまった彼らはもう飽きたのか私の個性についての話もなくなってしまった。
プチン、プチンとテグスが切られた感触があった。と、同時に入る無線。どうやら敵チームも馬鹿ではないらしい。一人になった私を見てなのか、もともとそういう作戦だったのか、二人同時にやってきたらしい。
しかも正反対からのお出ましだ。まだ複数しかけたトラップのうち一つ目を通っただけなので、距離は十分ある。
誰と誰が来ているのだろう。梅雨ちゃんじゃないことを祈ろう。
プチン、更にもう一つ切れる感触がする。反対側が切られた感触はないから、バレたのか、地上を移動していないか、そもそも動いていないか。どちらにせよ、前方からの敵チームは確実に真っ直ぐこちらへ向かって来ている。
誰かわからないままの正面対決は避けたかったけど、そう悠長なことも言ってられない。背面には左手から伸ばした強度MAXのテグスで飯田くんのときのようなトラップを仕掛けておく。
「みんな!助けに来たよ!」
正面からきたのは、緑谷くんだった。檻の中からわっと声があがる。その声が合図だったのだろうか、背後のテグスの二つ目が切れる感触があった。
緑谷くんの個性はとても強力だ。その反面、使ったら最後の諸刃の剣でもある。
ということは、緑谷くん自体は囮で背後の人物こそが本命ということになる。使っていない右手からテグスを緑谷くんに伸ばしながら慌てて振り返る。
背後は一体誰だ。
最後のトラップも切られた。姿が見えるはずだ。
『ヒーローチーム、蛙吹逮捕』
集中していたせいで、アナウンスに驚いてしまった。これでは轟くんのことを笑えない。その一瞬をついて緑谷くんが駆け抜ける。背後から現れたのはお茶子ちゃんだった。
「よかった、お茶子ちゃんで。」
ほっと一息ついて檻に向かって一直線の緑谷くんに伸ばしていたテグスを巻きつける。体を掴むにはいたらなかったが、右足を捕まえられた。ぐっと持ち上げれば緑谷くんが宙に浮いた。
檻の中からあれは磁力反発を使ってるんじゃないか、とか声が聞こえる。
残念だけど、私の個性はテグスだけだよ。
誰に言うでもなく心の中で呟けば、焦って突っ込んできたお茶子ちゃんが即席ネットに絡まる。また背面を繋ぎ合わせてお茶子ちゃんはもう大丈夫だろう。
そうして緑谷くんに向き直ったら、不安定な体勢のままこちらに向かって狙いを定めている。あの強力な個性を使われる。
テグスを伸ばそうとするも、緑谷くんまでは少し距離がある。多分、辿り着く前に打たれてしまう。
咄嗟にお茶子ちゃんに繋がったままのテグスを巻き取る。と、私の居た場所のすぐ傍のコンクリートが抉られた。
「あっぶない……!」
巻き取ったおかげで近くまで来たお茶子ちゃんにタッチしてばくばくと早鐘を打つ心臓を落ち着かせる。焦ってしまって緑谷くんのテグスも緩めてしまった。
お茶子ちゃんに巻いたテグスを解いて、自身の個性とコンクリートに落ちてしまった痛みに悶えている緑谷くんをじっと見つめた。
「絶対に……助ける!」
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