2022/10/12

酔いの言葉

ヒューベルトに告白


私は恋人にするならヒューベルトがいいなぁ。ヒューベルトのこと好きだもん。
…は?

テラスで酔いを覚ましていた#主#に付き添っていると#主#が急におかしなことを口にした。ヒューベルトは片手のワイングラスが指の間からすり抜けそうになり、慌てて力を込めて握り直す。

彼が「何を言っている?」と額に汗を滲ませながら#主#をみた理由はとてもシンプル。信頼できる女からいきなり告白をされたから、男として当然の反応が出たのだ。ただ、動揺の後から来た感情は関心と好奇心だった。それを感じたヒューベルトはそんな自分に驚いた。
それは思春期の青年が淡い恋に気づいた時と同じ反応なのだから。そんな反応が冷徹な自分の中に眠っているなど、摩訶不思議なことだった。

「飲み過ぎですよ。」

自分の口から出た言葉は天の邪鬼なもの。本当はもっと求められてもいいのに。寄り添ってもらっても構わない。甘えられても、我儘を言われても、好きになれと命じられても、全然構わないのだから。
ただ、非常に恥ずかしく、そんなことは出来そうにない。

「そう、だね。もう寝なきゃ。」

#主#は半分寝ている目で空を見上げてから残ったワインを煽るように飲み、ヒューベルトを残してホールに戻っていく。ヒューベルトとしてはその姿を追いたいが、なんと言って会話を繋げばいいのかわからず出遅れてしまう。
#主#のヨロヨロとした歩みにめざとく気づいたエーデルガルトは#主#に声を掛けたので、ヒューベルトは我に返って#主#に大股で近寄ると部屋に連れて行くと申し出た。

二人でゆっくり廊下を歩くときは無言だった。片目の#主#が転ばぬように階段を上がるときはヒューベルトが腰を抱きながら歩いていた。この時のヒューベルトは#主#の部屋に入った後どうすべきか悩みあぐねていた。

好かれているのなら、流れに乗って体の関係を作ってもいいのでは?これを機に互いを意識して関係が深まるのは良いことではないか。

「#主#殿、先程の言葉は何だったのでしょうか?」
「ん?何?どの時の言葉?」
「テラスにいた時に、私に言った言葉です…、私を、好ましく想っていると、…貴殿は確かに言いました。」
「うん。好きだよ。…すき、…すごくね。」
「っ、それは、……本気で?」
「…む、…ぅ、うぅ、…寝たい…、おや、おやすみ、」

酔いの限界か、#主#は両目を閉じて夢遊病者のように手を突き上げてベッドを探り、ベッドに足がぶつかるとそちらに向けて力なく倒れ込んだ。

残されたヒューベルトはまた額に汗を滲ませ、ごくりと唾を飲んで熱い息を吐いた。

「これは貴殿のせいですな。」


end




 
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