11.仲なおり


シャワーで濡れた髪をタオルで包みながら、部屋に戻る。間接照明の淡い明かりを頼りに、窓の近くへ歩いた。夜景というには、寂しすぎるけれど、この機械的な光に懐かしさを感じる。

「髪、濡れたままだと色っぽいね。」
「ひゃ!?」
「んふっ…可愛い声だ。」

いきなり後ろから抱きしめられて、悲鳴が上がった。背後には、バスローブ姿のアーデンがいた。私の腰を抱きしめながら、私の頭に顎を乗せている。

「あ、アーデン!音もなく入ってこないでっ!」
「あっは、それ、昔もよく言われたなぁ。懐かしい夫婦の会話が聞けて嬉しいよ。」

すごく嬉しそうに言うものだから、私はそれから先の言葉を失う。そして、頭上から香る石鹸の匂いに、頬が赤らんだ。アーデンもシャワーを浴びてすぐこちらにきたらしい。お互いバスローブという頼りない布越しだと、相手の体温がよく伝わってくる。とても、あたたかかった。でも、頭の上から一雫の水が首筋に伝ってきて、肩をすくめる。

「つめたいっ…、アーデンも髪が濡れてるんじゃない?」
「君が寝ちゃうといやだから、すぐに来ちゃった。俺たち、似た者夫婦だねぇ。」
「…。」
「ね?」

うん、と言わせたいのか、アーデンは身をかがめて私の頬に自分の頬を寄せて聞いてくる。横目で彼を見れば、綺麗な瞳が返事を待っていた。…本当に何百年経っても、可愛いいことをする男だ。
そうだね。と返してやると、くっきりした形のいい瞳が満足そうに細められた。

「んねぇ〜…俺運転で疲れちゃったから、もう寝たいんだけど…一緒に寝よ?」
「…うん。」
「さぁ、おいで。」

アーデンに誘われて、後ろのベットに二人で向かう。電気を消して、布団をめくって中に入ると、途端にアーデンに抱きしめられた。

「アーデン 、苦しいよ。」
「湯冷めしたのかなぁ?寒いんだ。だからさぁ、あっためてよ。」

私はアーデンにガッチリと抱きしめられる。胸を圧迫されて、息が苦しい。男の太い腕、筋肉質な体つき、厚い胸板に、私の体の奥が疼いた。ただ、抱きしめられているだけなのに、自分の瞳がとろけていく。

「…わかった。」

腕を背中に回して、抱きしめる。すぅっと耳元で息を吸ってから、ゆっくり吐き出される音がする。

「今夜は離さないよ。」
「アーデン…。」
「また目を覚ました時、君がいなくなってしまいそうで怖いんだ。君は俺を驚かせるプロだからなぁ。だから、こうして、しっかり抱きしめないと。」
「…そうやって抱きしめていてくれれば、」
「?」
「もう逃げないかも。」

いきなりアーデンが私にキスをした。私は戸惑いながらも、それに応えていると彼は私のバスローブに手をかけた。

「流石の俺も、もう限界。」
「アーデン…。」
「俺は、あれから1日たりとも君を忘れたことはなかったよ。それが嘘だと思う?嘘じゃないってことは、明日わかるから、俺を信じて。」

柔らかな口調と、アーデンの低い息遣いが刺激的だった。彼の金色の瞳が柔らかく緩んでいるのが見えた。普段凛々しく鋭い瞳なのに、こんなにとろけていると私にもその幸せが移ってくる。そう、思考さえもとろけていく。

「また君をこの腕の中に取り戻すことだけが、俺の望みだった。もう逃がしたりなんてしないよ。」
「…ほんとうに?」
「本当だよ。」
「私がいなくて、いやだった?」
「当然。だからこうして探したんだよ。」
「また愛してくれる?」
「今度は、もういやだって思うくらい激しく愛してあげる。何年も何百年も、何千年経とうとも。君に拒まれたって愛してあげるから、心配しないで。…だから、約束、して?君も俺から離れたりしないって。離れたくなるほどいやになったら、我慢するんじゃなくて、俺に説教して。黙って消えるなんて、…もうなしだよ。またそんなことしたら、本当に鎖で繋いで閉じ込めちゃうから。」
「うん。ごめん。」
「じゃあ、仲直りのキスをしよう。」

くいっと顎先を掴まれて、顔を近づけられる。私も顔を上げて、どちらからともなくキスをした。空白を埋めるような、全てを許しあえるキスだった。
キスがだんだん深くなって、それからは少し強引に愛の渦に飲まれていく。久しぶりのアーデンとの行為に怖くもあったけれど、求められていることが伝わってきて、体の隅々まで満たされた。




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