12.いっときのお別れ


「…っ…ぅん、…ん?…んん!?…んーーっぅ!」

息がしにくくて、目が覚めたら、アーデンに長い長いキスをされていた。息できないっ!と胸板を叩いて訴えるのに、アーデンは分かっていてやめない。

「…っぷはっ!しぬっ!」
「っははは!息苦しい?じゃあ人工呼吸しなきゃ、はい、あーん。」

楽しそうに、朝っぱらから私にまたキスしてくる彼。新婚の時よりも、ずっと甘えてくる。私は笑いながら嫌がるけど、両頬を手で抑えられて半ば無理やりキスをされた。私は息が苦しくて涙目になりながら、彼の寝癖まみれの髪を撫でてあげる。

「…ふふ、いいねぇ、しあわせな朝って感じ!」

にこーっと笑うアーデンは、呆れるほど愛らしい。私は素直に笑顔を浮かべて見つめ返すと、彼は優しい視線を送り返してくれた。

「…お仕事行かなくていいの?」
「うんん、行きたくないの。」
「だめよそれは。」
「え〜、今日は時間を止めて一日中ここにいたいよ…。」
「わざわざそんな大技使わなくても、私たちには時間がたくさんあるでしょ。」
「まぁ、ねぇ。…それに、今日は君に見てもらいたいものがあるから、行かなくちゃ。」

頭をかきながらアーデンは目を泳がせる。私は気になって何を見せたいのか聞いたけれど、見てからのお楽しみだとかわされた。

アーデンは私の手を握りながら起き上がって、脱ぎ散らかされた服を手繰り寄せる。私は布団を引き上げながら、自分の体に浮かぶ痕を目にした。すごくたくさんあって、愛されたことを実感する。昨夜の愛を変わらずに朝から注いでくれたアーデンの後ろ姿を見つめていると、どこか寂しくなった。自分から諭しておきながら、行かないでと言いたくなる。アーデンはだるそうにズボンを履いて、シャツを着ていた。

「昼にさ、俺の研究室に来てよ。場所、覚えてる?」
「うん。」
「待ってるからさ。」
「うん。」

アーデンは上着を着てスカーフを首元に巻くと、手袋をはめた。もう、仕事に行く準備ができている。私は、アーデンが立ち上がる前に、その背中に抱きついた。

「おっと、…んふふ、いきなり寂しくなっちゃった?」
「何時に帰るの?」
「そうだなぁ。8時過ぎかな?でも、寂しくなったらいつでも電話をかけてきていいから。出られなかったら、ちゃんとかけ直すよ。」
「うん。」
「はぁ…反則だって、その顔…、そんな顔されたら、ほんとうに時間止めてここにいちゃうよ?」

参ったな、と肩越しに振り返りながら私にキスをする。私も首を伸ばして求めて、アーデンの首に腕を回した。

「さびしい。」
「っ…、分かってるよ。俺もだから。でも、今はこれだけ。昼、またあったときにキスしよう?それに夜は…もっと、してあげる。」

アーデンは寂しさがこみ上げてきた私をなだめるように背中をさすると、優しく抱きしめてくれた。私は体をすり寄せて目を細める。

また、こんなに彼を恋しがる自分に戻るなんて、夢にも思わなかった。いや、むしろ、昔よりずっと、愛おしい。間が空いても、すれ違っても、こうして抱きしめてくれる人だから。

寂しいけれど、ゆっくり離れる。顔を上げて見えたアーデンの顔は優しい顔をしていた。

「昼にね、ね?」
「…うん。」
「イイコだねぇ。」

大きな手が、私を撫でてくれた。





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