白コナーvs親密度中程度サイモン


「2時間42分15秒
2時間42分16秒
2時間42分17秒…」

コナーの声が広い部屋に響く。虚ろな彼の目は何をみているのかわからない。ただ、捨てられた子犬が飼い主の帰りを必死で祈るように待つ姿はどこか哀れで愛らしい。
そんな後ろ姿に、冷静な声がかかる。

「時間を数えている暇があったら、何か彼女のためになることをすればいい。」
「したさ!全ての部屋、廊下、階段、浴槽、トイレ、窓、ポスト、玄関、カーテン、…庭の掃除だって全てした。車も自転車だって洗った。洗濯もしたし、ゴミ捨てもした。洗い物だって終わってる。これ以上何をしろっていうんだ?」

今●は美術関係の会合参加のため、外出中だった。家に残された二体のアンドロイドは自分たちがやれる仕事を見つけて自主的に動いていた。

だが、コナーがまともに彼女を待てた時間は1時間34分14秒。それを過ぎると、今どこにいるんだろう?誰といるんだろう?彼女を誘惑する汚い男どもはいるだろうか?とブツブツと独り言を言い始めた。
そんなコナーに目もくれず、サイモンは淡々と洗濯物を綺麗にたたむ。とても綺麗に折り目正しく、その作業を繰り返しながら、持て余している時間をやり過ごしていた。

「会いたい気持ちはわかるが、気にしすぎだ。」
「はぁ…。」

コナーは彼女に無関心なサイモンを薄く睨むと首を振る。

「まったく、君が同居人でよかったよ。彼女の良さがわからないアンドロイドだから、無駄な心配もいらないし、本当にありがたい。」
「……。」

コナーの皮肉を耳にしたサイモンは、スっと青い瞳をコナーに向ける。その目遣いに何らかの意図を感じたコナーは、ん?と片眉を釣り上げる。

「何だ?」
「いや、別に。」
「珍しく気を悪くしたのか?」
「いや。ただ、俺も彼女の良さを少しは分かっているつもりだ。」
「!?」
「君ほどではないにしてもね。」

コナーは半口を開いて純粋な黒目を大きく開く。彼のLEDは黄色く点滅を繰り返していた。いつの間にか彼女への無関心を脱したサイモンを感知し、一気に敵対ルートが解放された。

「か、彼女はやらないぞ!!」

そのシンプルかつ素直過ぎる言葉に凄みも恐ろしさもない。サイモンはコナーから目をそらして、ただんだ上着をクローゼットの中へしまった。

「明日の食事はどちらが何を作る?」

そういえば、と思い出したようにコナーに聞く。コナーは腕を組みながら、芯の通った声で返した。

「食事は全て僕が作るよ。君はお得意のスリープ状態でいてくれて構わない。」
「いや、俺も作る。この前、彼女は俺の作った食事が美味しいと喜んでくれたんだ。きっと彼女も俺の料理が食べたいだろう。」
「僕だって美味しいと言われたことくらいある!」

バチバチバチバチ。
互いの間には青い火花が散っていた。サイモンは冷静な無表情で。コナーはギッと奥歯を噛んだ噛みつくような顔で。互いの顔を睨み合う。

「なら、朝の食事は2人で作ろう。互いの得意な料理をテーブルに出して、彼女がどちらを食べたがるか勝負しよう。」
「そうしよう。選ばれなかった方は一日中スリープモードだ。いいな?」


ーガチャガチャ


戦々恐々としていた2人の耳に、玄関が開く音がした。コナーとサイモンは互いから目を離して足早に玄関へ向かう。
そして、帰宅した●に穏やかな笑顔を送った。

「ただいま。」
「おかえり、●!」

コナーはたまらず●に駆け寄って抱きつく。寂しさを埋めるように、目を細めて思い切り微笑むコナーは愛らしい。●はよろけながらもその体を抱きしめて笑い返した。

「寂しがり屋だね?」
「会いたかった。会いたくて仕方がなかった。…やっと会えた。」

ぎゅ。っと彼女の肩口に顔を埋めるコナー。●は完全に照れた顔でコナーの頭を撫でる。そして、数歩分、奥に立っているサイモンに目をやった。
にこり、と2人は顔を見つめて笑った。彼は静かな笑みを浮かべて●に言う。

「おかえり、●。」
「ただいま。」
「シャワーを浴びるかい?」
「うん。」
「じゃあ、着替えを持ってくるよ。」
「ありがとう。」

紳士というか、気がきくというか…。一歩引いているけれど、すごく気に止められていると感じる。だから、言葉は少なくとも信頼できるし、うれしいと思う。

「はぁ、我が家は落ち着くわぁ。」

なでなで、とコナーを撫でながら奥に進む。シャワーを浴びて、ゆっくり休もう。少し疲れた目をこすって歩いていると、となりに沿うように歩くコナーがこめかみに唇を落としてきた。


end



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