drop


ー …これは、困ったことになったな。

●と部屋で飲んだが、普段酔わない彼女が酔いつぶれてしまった。そして、滑り落ちるように俺の膝の上に頭を乗せて、寝息をたてながら眠ってしまった。

突然気を失うかのような倒れ込みだったので、急性アルコール中毒かと疑ったが、至極幸せそうに寝ている。俺は彼女が落としかけたグラスを片手に、どうしようかと迷っていた。

ここは俺の部屋だ。彼女を抱いて彼女の自室に運ぶのは容易だが、その場面を見かけた兵士は我々を見て何か良からぬ勘違いをしそうで困る。

かと言ってここで寝かせるのも…。俺たちは恋人ではない。最悪、彼女にベッドを譲り、俺は椅子で寝るべきかと。しかし、今日は疲れていた。出来ることならベッドに寝たい。
しばらく様子を見て、彼女が起きれば部屋に帰ってもらおうか。

「ぅーん。」
「起きたか?」
「…える、びん。」
「何だ?」
「すきぃ。」
「は?」

思わず、は?と口にしてしまった。寝言だろうか。それにしても、好き?だと?俺の名前を呼んだが…。

「そ…そうか。」
「んー。」
「…有難う。」
「んー。」
「…っ。」

●は寝がえりを打ったので、俺は彼女の寝がえりを阻止する。…やはり、膝枕は男性がするべきではないな。

「…おい、そろそろ起きてくれないか?」

彼女のことは、ただの仲間だと思っている。しかし、生理的な反応が出てしまう。この状態を起きた彼女に見られてもきまりが悪く、出来ることなら避けたい。俺はグラスをテーブルに置くと、彼女を強引に抱き起こした。

頭を垂らしながら俺に抱き起こされるが、全く起きない。軽く揺らして声をかけると、半目を開けた。

「もう部屋に戻ったほうがよさそうだ。」
「エルヴィンとねる。」
「何を言っている。それはできない。」
「けち。」
「!?」

予測不可能な動きだ。●は俺の首に腕を回して肩口に顔をうずめてきた。
俺の鼻先が彼女の髪に埋まり、甘い香りが香る。柔らかな膨らみが胸板で潰れて、目を細める。

「君を酔わせると厄介だな。…きっと、目が覚めれば君は何も覚えてはいないのだろう?」
「すき。」
「…このくらいにしておいた方が、身のためだぞ。」
「おそう?」
「君次第だ。」

首に回る腕が締まり、俺に体重を預ける。首筋に彼女の唇が薄く這い上がり、俺は息を吐く。

「警告はした。」

俺は彼女の華奢な体を抱きしめ、持ち上げる。ベッドに落とせば、笑い声が響いた。

◆◆◆◆◆◆◆

「ひぃぃ…!?」
「ああ、落ち着け。」

やはりこうなったか。悲鳴で起こされ、目を閉じる。●は記憶がなく、シーツを身にまとってなんとも滑稽な顔をしていた。

「君に好きだと告白を受け、誘惑をされたので応えた。今回ばかりは、君にも責任がある。」
「ど、どこまで…」
「最後までだ。君が何度も強請るので、応えさせてもらった。」
「〜っ!?」

顔を赤らめていく彼女を見て、思った。嫌ではなかったのか?…とすれば、あの告白は本音なのか?
俺は前髪を掻き上げながら、シーツに頬杖をつく。彼女の首に残る痕を見つめながら、俺も彼女から残された痕を見せる。

「俺の体も愛されたものだ。…俺のことが好きだと言ったのは、酔った勢いではなく本当か?それとも、こういう場面では君は積極的に男を食うのか?」
「…なっ!そんな誰でもなわけないです!」
「ほぉ?」
「あっ!」

掴めた、と確信した。
…彼女か。悪くはない。彼女は頭も良く、物分かりがいい。組織の暗黙のルールを理解し、出すぎたこともしない。いわゆる、優等生だった。だから気に入っていたが、まさかこのような一面があるとは。

上官である俺という男が、誘われ、愛された。

「それで、答えは?」
「…え、エルヴィンさんを…そ、その、その、…や、でも、…いえ!なにも!」
「素直に言えば、俺も素直になろう。」

この歳になって、女性と夜を共にするとは。
恥じらいながらも、俺への秘めた想いを口にした彼女を黙って引き寄せると、静かに口づけを交わした。


end

ALICE+