2度目の誘い


「抱いて、それは君の口から聞いた言葉だ。」

起きれば酒が切れており、真夜中だというのに頭は冴えていた。シーツに横たわる自分の素肌を抱きしめながら、椅子に座って窓辺で酒を飲んでいたエルヴィン団長を見つめる。

記憶がないとは言え、自分が誘ったなら納得する。私は彼を尊敬していたし、昨夜は彼の部屋で酒を注ぎあう流れになった時にあわよくばと期待していたのだから。その時の記憶が曖昧なのはすごく切なくて惜しい。

「あの、私は、失礼をしましたか?」
「いや。この夜を不快だとは思わない。」

ならこの距離は何?一緒に朝まで隣に寝てくれないのは?その場の流れだから?寝たら終わりということ?
胸の前でシーツを握りしめて俯いていたら、彼は静かに私を見つめていた。前髪が下りている彼は他は抜け目ないエルヴィン団長の姿を保っている。もちろん服は着ているし、寝巻きというよりもいつでも外に出られるようなシャツとズボンを履いている。
ただ、強いウイスキーを口に運んでいる。

「このままこの部屋で休んでも構わない。」
「団長はそこにずっといるんですか?」
「ソファーで休もう。」
「そうですか。私は、部屋に帰ります。」
「……。」

散々だ。体から入って距離が縮んだっていいのに私にはそんな魅力はないらしい。こんなことならしなきゃ良かった、と涙が出そうになった時、彼は立ち上がって私のそばに腰を下ろした。

「勘違いしないで欲しい。」
「わ、わかってますよ。」
「いや、君を突き放しているわけじゃない。俺は、こういう流れに慣れていない。どう君に関わればいいのかわからないだけだ。」
「……。」
「君は確かに酔っていた。酔った君の気まぐれで俺は求められたんだろう。君を諭し、部屋に帰らせることもできたが、俺は君の誘いに乗った。理由は相手が君だからだ。」
「…?そ、それは、あの、…わかりにくいのですが…?」

困った私の手が彼に取られる。重なったその手を緊張しながら見つめた。

「君でなければ断っていたということだ。」

彼は私を見つめ、聞いた。きっと抱いている間もずっと彼が気にしていたことだろう。

「君は気まぐれか?それとも本気か?」

真偽を見極めようとする強い目は私の憧れ。その真剣な眼差しが好きで、その目で命じられれば何だってしたくなる。彼に身を寄せると、本気です、と訴る。
彼は短く息を飲んでから私の体を優しく抱き止めて、はぁ、と緊張が解けた吐息を吐いた。

「それならば嬉しい。それがわからないからキミが目覚めるまで怖かったよ。君のそばで朝を迎える資格が俺にはあるのか…本当は選ばれていないのではないかと。」
「私なんかでいいんですか?私は団長のことがずっと好きで、こうなったら嬉しいと…ずっと、その、期待していて。」
「本当か?…ふふ。真面目な君は、実は熱い思いをひめてそばにいてくれたのだな。それを見極められなかったことは実に惜しい。知っていたら、もっと早く進められていたのに。」

信じられない。私は彼の腕の中にいて、熱い胸板に身を寄せ、逞しい腕で抱きしめられている。芯の通った声がすぐそばで囁き、私のそばから離れないなんて。

「団長、」
「エルヴィンでいい。」
「はい、え、え、エルヴィン。…私、全く記憶がないんです。だから、あの、良かったら…っ。」
「君は、随分と積極的なのだな。ああ、俺で良ければ…。」

彼が驚きを何とか抑えながら、私の上に覆い被さる。月明かりに照らされた彼をじっとみて脳裏に焼き付ける。彼の熱や動きや声が欲しい。ドキドキした体を曝け出して彼の頬にそっと手を寄せた。

「抱いてください、団長。」
「その台詞、一夜に2度も聞けるとは。」


end

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